なぜ?遺言で「いらない土地」を相続させる故人の想い
「親が遺した遺言書を開いたら、価値があるとは思えない山林や田畑を、自分に相続させると書かれていた」「他の兄弟には預貯金や自宅を、自分にだけ厄介な土地を押し付ける内容で途方に暮れている…」
当事務所では、このようなご相談を数多くお受けしてきました。今まさに、ご自身の状況と重ね合わせて頭を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
なぜ、故人はこのような遺言を遺したのでしょうか。もちろん、不仲な相続人を困らせる意図が全くないとは言えないケースも存在します。しかし、私たちがこれまで見てきた事例の多くは、もう少し複雑な事情が絡み合っています。
- 他の相続人とのバランス調整:預貯金など分けやすい財産を他の相続人に渡し、分けにくい不動産を特定の相続人(例えば長男)に、というバランスを考えた結果かもしれません。
- 土地への特別な想い:故人にとっては先祖代々受け継いできた大切な土地で、誰かに守り続けてほしいという切実な願いが込められている場合もあります。
- 良かれと思っての判断:今は価値がなくても、将来的に何かの役に立つかもしれないという善意から、特定の相続人に遺したというケースも少なくありません。
どのような理由であれ、遺された方にとって管理が難しく、固定資産税だけがかかり続ける「負の財産」となってしまうのであれば、それは大きな負担です。しかし、感情的に対応する前に、冷静に法的な対処法を知ることが解決への第一歩となります。
原則は拒否できない?「相続させる」遺言の効力と壁
「いらない土地だけを拒否したい」と考えたとき、多くの方が最初につまずくのが、遺言書の「相続させる」という文言の壁です。この一文が、なぜ特定の土地だけの放棄を難しくするのでしょうか。
結論から申し上げると、相続人の一人であるあなたに「特定の土地を相続させる」と書かれた遺言は、法的には「遺贈」ではなく「遺産分割方法の指定」と解釈されます。これは、被相続人が生前に「私の財産は、この方法で分けてください」と最終的な意思表示をしたものとして、非常に強い効力を持つのです。
土地の(特定)遺贈であれば、受遺者(財産をもらう人)は単純にその権利を放棄(遺贈の放棄)できます。しかし、「相続させる」と指定された財産は、その時点で法的に承継されたものとみなされるため、あなた一人の意思で「この土地だけ受け取りません」と拒否することは原則としてできません。
この考え方は、最高裁平成3年4月19日判決でも示されており、遺言に反する遺産分割を行うためには、相続人全員の同意が必要です。なお、遺言執行者が選任されている場合には、遺言執行者の同意が必要となることがあります。
遺言書でどのような効力を持つ事柄を定められるかを知ることは、こうした問題を理解する上でも重要です。
【対処法別】遺言で指定された不要な土地を拒否する3つの手続き
「相続させる」遺言への対応には制約がありますが、状況に応じた選択肢はあります。状況に応じて、不要な土地の負担から解放されるための選択肢が存在します。ここでは、具体的な3つの対処法を、それぞれのメリット・デメリットと共に解説します。ご自身の状況に最も適した方法はどれか、慎重に検討してみてください。遺産の全体像や相続方法の基本については、遺産の分類や相続手続きの流れの記事も参考にしてください。
選択肢1:「遺贈」の場合に有効な「遺贈の放棄」
まず、大前提として確認すべきは、遺言書の文言です。もし遺言書に「名古屋市〇〇の土地を遺贈する」と書かれていた場合、これは「特定遺贈」にあたります。このケースであれば、「遺贈の放棄」という最もシンプルな手続きで、不要な土地だけを個別に拒否できます。
この方法の最大のメリットは、家庭裁判所での手続きが不要な点です。遺贈の義務を負う人(多くは相続人や遺言執行者)に対して、「遺贈を放棄します」という意思表示をするだけで効力が生じます。ただし、口頭では「言った、言わない」のトラブルになりかねません。後の紛争を避けるため、配達証明付き内容証明郵便を利用し、意思表示をした事実を公的に証明できる形で残しておくことを強く推奨します。
特定遺贈の放棄は、遺言者の死亡後いつでもできますが、遺贈義務者その他の利害関係人から相当期間を定めて承認または放棄を催告されることがあります。あなたの意思表示が遅れると、他の相続人が遺産分割を進められないなど多大な迷惑をかけてしまいます。放棄を決めたら、速やかに意思表示をすることで、他の相続人とのトラブルを避けやすくなります。なお、相続人に対して「相続させる」と書かれている場合は、この方法は使えず、前述の通り相続人全員の同意が必要になる点に注意が必要です。
遺贈の放棄をしても相続人の地位は失いません。不要な土地は自身も含め相続人全員で遺産分割協議により誰が相続するか決めることになります。
選択肢2:借金もあるなら「相続放棄」
「不要な土地だけでなく、故人には多額の借金があることが判明した」「土地以外に価値のある財産はなく、相続手続き自体に関わりたくない」
このような状況では、「相続放棄」が最も有効な選択肢となります。相続放棄とは、預貯金や不動産といったプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、一切の遺産を相続する権利を放棄する強力な手続きです。
この手続きの最大の注意点は、「すべての財産」が対象となることです。不要な土地を相続しない代わりに、価値ある預貯金なども一切受け取れなくなります。また、手続きには厳格な期限があり、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述しなければなりません。
この3ヶ月という期間は非常に短く、財産調査が間に合わないことも少なくありません。もし期限内の判断が難しい場合は、相続放棄の期限を延長する手続きもあります。一度、相続放棄が受理されると原則として撤回はできませんので、財産調査を尽くした上で、慎重に判断する必要があります。
相続放棄の詳しい内容については「相続放棄をしたい方へ」の記事をご覧ください。
選択肢3:一度相続してから手放す「相続土地国庫帰属制度」
「他の財産は相続したいが、不要な土地だけを将来的に手放したい」というニーズに応えるため、2023年4月27日に「相続土地国庫帰属制度」がスタートしました。
これは、一度相続した土地の所有権を、一定の要件を満たす場合に国に引き渡せる制度です。他の財産を維持しつつ、問題の土地だけを手放せる可能性がある点がメリットです。この制度は、相続登記が未了であっても、相続または相続人に対する遺贈により取得した土地であれば申請できます。ただし、所有者であることを証する書面の添付が必要です。
しかし、どんな土地でも引き取ってもらえるわけではなく、非常に厳しい要件があります。特に、以下のいずれかに該当する土地は原則として承認されません。
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 通路など他人に利用される予定がある土地
- 土壌汚染がある土地
- 境界が明らかでない土地
- 一定の勾配・高さの崖があり、通常の管理に過分な費用・労力がかかる土地
- 通常の管理・処分を阻害する工作物、車両、樹木などがある土地
- 除去しなければ通常の管理・処分ができない有体物が地下にある土地
- 隣地所有者などとの争訟がある土地
- その他、管理・処分に過大な費用や労力がかかる土地
さらに、利用には審査手数料(土地1筆あたり14,000円)に加え、承認された場合には10年分の管理費相当額の負担金(原則20万円から、土地によっては100万円以上)が必要となります。山林や農地など、管理が難しい土地ほど要件を満たすのが難しく、費用もかかるため、利用できるケースは限定的というのが実情です。
この制度の詳しい内容については「相続した土地を国が引き取る制度が開始されました(相続土地国庫帰属制度)」の記事をご覧ください。
【実践】相続人全員の同意を得て、土地を拒否する流れ
さて、「相続させる」旨の遺言で指定された土地を事実上「拒否」するための、唯一にして最も本質的な方法が、相続人全員の同意による遺産分割協議です。これは、遺言の内容を一旦脇に置き、相続人全員であらためて財産の分け方を話し合って決める手続きです。
この方法を成功させる鍵は、コミュニケーションにあります。
ステップ1:他の相続人への丁寧な説明
まずは、なぜあなたがその土地を相続できないのか、その理由(管理の負担、固定資産税、将来的なリスクなど)を他の相続人に誠実に説明し、理解を求めることが不可欠です。「遺言に書いてあるのだから」と一方的に反発される可能性もありますが、感情的にならず、客観的な事実を伝えて協力をお願いしましょう。
ステップ2:遺産分割協議書の作成
全員の同意が得られたら、その合意内容を「遺産分割協議書」という正式な書面にまとめます。この協議書には、以下のような具体的な取り決めを明記する必要があります。
- 指定された土地を、あなたの代わりに誰が取得するのか。
- あるいは、誰も引き取り手がない場合、土地を全員で共同売却し、経費を差し引いた現金を分配するのか。
- 売却できない場合、管理費用や固定資産税は誰がどのように負担するのか。
この遺産分割協議書に相続人全員が署名し、実印を押印することで、遺言とは異なる財産承継を合意内容として明確にできます。なお、遺言執行者が選任されている場合には、遺言執行者の同意が必要となることがあります。たとえ遺産分割協議の後に遺言書が見つかった場合でも、相続人全員の合意があれば協議内容が優先されることがあります。
もし、話し合いがまとまらない場合は、原則として遺言どおりの承継を前提に、相続放棄の可否、遺言の有効性、土地の処分方法などを個別に検討する必要があります。遺産分割調停で遺言と異なる分け方を実現できるとは限らないため、早めに専門家へ相談することが重要です。
どの方法を選ぶべき?状況別の判断ポイントと相談の重要性
ここまで解説してきた選択肢を、どのように選べばよいのでしょうか。ご自身の状況を整理するために、以下の4つのポイントを確認してみてください。
- 遺言の文言は?
「遺贈する」であれば「遺贈の放棄」が第一候補。「相続させる」であれば「相続人全員の同意」を目指すか、「相続放棄」を検討します。 - 他の財産は欲しいか?
預貯金など欲しい財産があるなら「相続放棄」は選べません。「相続人全員の同意」か、要件を満たせば「相続土地国庫帰属制度」を検討します。 - 借金はあるか?
借金などマイナスの財産が多い場合は、財産調査の上で「相続放棄」を最優先で検討すべきです。 - 土地の状態は?
建物がなく、境界が明確など、土地の状態が非常に良ければ「相続土地国庫帰属制度」も視野に入りますが、多くの場合、要件を満たすのは困難です。
これらの判断は、遺言書の法的な解釈や正確な財産調査が前提となります。特に「相続させる」遺言への対応は、他の相続人との交渉も必要となり、感情的な対立を生みやすいデリケートな問題です。自己判断で行動を起こした結果、他の相続人との関係が悪化したり、取り返しのつかない事態に陥ったりするケースも少なくありません。
「どうしたらいいかわからない」と一人で悩まず、問題に直面した時点で、私たちのような相続の専門家にご相談いただくことが、適切な解決策を検討するための有効な方法です。当事務所では、無料相談にて、あなたの状況を丁寧にお伺いし、状況に応じた選択肢をご提案いたします。まずはお気軽にご連絡ください。

遺産相続は、誰もが直面する可能性のある問題です。
「うちは財産が少ないから大丈夫」と思いがちですが、実は相続トラブルの7割以上は5,000万円以下の家庭で起きています。
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