相続法改正の知識-遺言の保管について

改正前は、自筆証書遺言を書いた場合、それを自分で(あるいは遺言者から保管の委託を受けた者)保管しておかなければなりませんでした。すると、災害や不注意によるなどの紛失、相続人による破棄・隠匿・変造されるおそれがあり、実際にそのような事例が存在します。また、相続人による遺産分割協議後に遺言書が発見されトラブルになるケース、そもそも遺言書を発見してもらえないこともあります。

そこで、遺言の作成を促進するため、法改正により、公的機関による自筆証書遺言の保管制度が創設されました。

 

保管は法務局によりおこなわれます。

遺言者は、住所地・本籍地・不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局に保管を申請します。

このとき、遺言者は自らが法務局に出頭しなければなりません。代理人ではダメです。遺言者が自ら作成した遺言であることを確認するためです。本人確認もおこなわれます。

 

保管申請がなされると、法務局は方式違反の有無を形式審査します。審査内容は、自書・日付・署名・押印・加除訂正の方法のみです。あくまで形式的審査です。内容の有効性までは審査されません。法務局に実質的審査権はないのです。したがって、法務局で保管が認められたからといって、その自筆証書遺言が有効とは限りません。公正証書遺言は内容までチェックしてもらえますが、自筆証書遺言の保管では内容まではチェックしてくれないのです。ここは注意が必要です(もっとも公正証書遺言も絶対有効とは限りませんが)。

 

遺言者の死後、遺言者の相続人・遺言書に受遺者として記載のある者等は、法務局で自筆証書遺言の存否確認が可能です。遺言書情報証明書の請求、あるいは、遺言書の閲覧請求です。あくまで遺言者の死後です。遺言者が死亡する前はできません。遺言の有無・内容を秘密にしておきたい遺言者の気持ちを配慮しているからです。

 

この制度により法務局で保管されている自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認が不要になりました。公正証書遺言と同じく偽造・変造のリスクが少ないからです。

※検認とは、家庭裁判所で遺言書の形状を確認し偽造・変造の防止をおこなう手続きです。申立て・必要書類の用意・立会い等手続きが煩雑で、数か月の期間を要します。法務局での保管をしていない自筆証書遺言は相続手続きの際に検認が必要です。

 

ここまでみると、自筆証書遺言の法務局保管制度は、公正証書遺言に似てきたとおもえるかもしれません。

では自筆証書遺言の法務局保管と公正証書遺言はどのように使い分けるのかという疑問が生じます。

これについては認知症のチェックを利用したいかどうかだといわれています。重度の認知症で意思能力がない者が書いた遺言は無効です。

自筆証書遺言の法務局保管制度では、遺言書の内容のチェックはされないので遺言者の認知症による遺言能力の有無までの判断はされません。

一方、公正証書遺言なら認知症か否かのチェックもおこなわれます。すなわち、認知症の疑いが全くなくこの点について争いなどおきそうにないときは自筆証書遺言の法務局保管制度の利用、認知症の疑いがありこの点について争いがおこる可能性がある場合は後日の紛争予防のため公正証書遺言を利用するのです(ただ、実際には公証人による判断能力の審査が怖い場合にどうしても遺言を書かせたい長男が遺言者である父を法務局に連れて行くなんてことがあるかもしれません)。

ただやはり、認知症以外の遺言の内容までチェックしてもらえる公正証書遺言の方が確実であるため、わたくし個人的には公正証書遺言の方がお勧めではあります。

 

この自筆証書遺言の法務局保管制度の開始時期(施行日)は、2020年(令和2年)7月10日です。

 

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