相続法改正の知識-遺留分と遺留分減殺について

(1)遺留分の金銭債権化(遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求へ)

遺留分とは、法定相続人に認められた最低限保障された相続分です。相続人の生活保障のために認められた制度です。例えば、被相続人が「愛人に全財産を遺贈する」との遺言を書いていたとしても、法定相続人である妻・子などは愛人に対し最低限保障された遺留分を主張し取り返すことができます。この請求のことを遺留分減殺請求といっていました。なお、この場合でも当該遺言が無効になることはありません。遺留分に反する遺言も一応有効です。遺留分は相続人が主張してはじめて具体的な権利が移転するからです。まず第一に被相続人の意思を尊重するということです。

ただし、兄弟姉妹には遺留分はありません。なぜなら相続関係が一番遠いからです。

 

具体的な遺留分については、基本的に遺産の半分(2分の1)を相続人でわけることになります。ただ、あまりないケースですが直系尊属(父・母・祖父母)だけが相続人の場合は3分の1です。

 

今回の相続法改正により、簡単に述べるとこの遺留分減殺請求した後の結果が今までとかわります。

例えば、相続人が妻1人だけで、被相続人たる夫が「愛人に全財産たる不動産を遺贈する」との遺言をのこしていた場合を想定します。改正前は妻が遺留分減殺請求をすると、不動産が愛人と妻の2分の1ずつの共有状態になってしまうのです。不動産が共有状態になると様々な問題が生じます。売却するのが困難になります。もちろん持分だけ売ることは制度上可能です。

しかし、不動産全体ではなく持分だけ買いたい人など実際にはまずいないでしょう。また、事業承継のための不動産や株式を後継者に相続させたい場合、事業承継を円滑にすることができません。そのため、いたずらに紛争を長引かせ複雑化させていました。

そこで、今回の改正により、遺留分権利者が行使できるのは、金銭の支払い請求としました。お金で解決するということです。現物返還が原則であったのが、金銭の支払いを原則としました。呼び名も「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」とかわりました。

これにより、目的物の共有状態はなくなり紛争の早期解決が見込まれます。

遺留分侵害額請求をされた受遺者・受贈者は、まとまった金銭をすぐ用意できない場合は裁判所に支払期限の猶予を求めることができます。

なお、この遺留分侵害額請求は、相続の開始及び侵害する贈与・遺贈があったことを知った日から1年以内に行使しないと時効で権利が消滅します。請求する場合は急いで下さい。

 

(2)遺留分算定方法の見直し

遺留分を算出するための財産の価格は、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価格(遺贈も含む)」に「生前贈与の価格」を加えて「被相続人の債務(借金)合計額」を差し引いた額とされています。

この「生前贈与の価格」について、相続人以外の第三者にされたものについては1年以内にされたものに限定されています。1年以上前に贈与されたものは遺留分の算定の基礎とはされません。

そして、改正前は、相続人についてされた生前贈与はその時期を問わず遺留分を算定するための財産の価格に算入されていました。つまり、はるか何十年も前にされた生前贈与も遺留分を算定するための財産の基礎とされていたのです。これでは第三者である受遺者等は相続人に対する古い贈与を知り得ないのが通常であり、第三者である受遺者等は予想がつかず不測の損害を被るおそれがあります。

そこで、今回の改正により、相続人についてされた生前贈与は相続開始前10年内にされたものについてだけ遺留分を算定するための財産の価格に算入すると制限を設けました。これにより、遺留分侵害額請求される側も予想がつき準備しやすく法的安定性を保つことができます。

ただし、害意がある場合(贈与者・受贈者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合)については、期間制限はありません。そのような場合にまで受贈者を保護する必要がないからです。

 

これら遺留分制度の見直しについての開始時期(施行日)は、2019年(令和元年)7月1日です。

 

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