今回の相続法改正では少し細かい部類に入る改正点になります。
相続が発生した場合、相続財産はまず共同相続人全員の共有財産となります。次に、共有状態であると不便ですので共同相続人全員により遺産分割をおこない具体的に相続財産を分配します。そして、この遺産分割の対象とされる財産は、相続開始時に現存し、かつ遺産分割時にも現存していなければなりません。改正前は、もし遺産分割前に共同相続人のうちの1人が相続財産を処分(預金の使い込みや売却)してしまった場合、その財産は遺産分割の対象とはされませんでした。その結果、最終的に、相続財産を処分(預金の使い込みや売却)してしまった相続人の遺産取得額が多くなるという不公平が生ずることがありました。
そこで、遺産分割前に、遺産に属する財産が処分された場合に生じる不公平を是正するための方策が新たに設けられることになったのです。
相続開始後かつ遺産分割前に、共同相続人の1人が遺産に属する財産を処分した場合、「処分をした相続人以外の共同相続人全員の同意」によって、処分された財産も遺産分割の対象となる遺産とみなすことになりました。これにより、実質的な不公平の是正を図ることができるようになりました。
具体例をみてみましょう。
被相続人である母が亡くなり、相続人が長男・次男・三男の3人だったとします。相続財産は、預貯金1,000万円と自宅(評価額1,000万円)だったとします。
遺産分割前に長男がキャッシュカードで預貯金1,000万円を全て引き出して使ってしまいました。この場合、遺産分割時に現存する相続財産は自宅(評価額1,000万円)のみです。改正前は、この自宅(評価額1,000万円)だけしか遺産分割の対象とはできませんでした。
家庭裁判所の遺産分割手続きにおいて長男が使い込んだ預貯金1,000万円は考慮されませんでした。別途、地方裁判所に対し不法行為による損害賠償請求か不当利得返還請求を提訴するしかありませんでした。
しかし、改正後は次男と三男の同意があれば長男が使い込んだ預貯金1,000万円も遺産分割の対象とすることができます。これにより次男・三男は別途地方裁判所に提訴する必要はなくなり、家庭裁判所にのみ手続きをすればいいことになります。かなりの負担減になります。
長男の同意はいりません。次男と三男の同意だけで大丈夫です。処分した相続人の同意はいらないのです。
この改正により、使い込みをした長男のように相続財産を処分したものが処分しなかった場合と比べて最終的な取得財産が増えるという実質的な不公平を是正することができます。
注意しなければならないのは、相続開始後に相続財産が処分された場合だけという点です。相続開始前に処分されることも結構ありますが、あくまで相続開始後にです。相続開始前の処分については今までと同じように別途地方裁判所(又は簡易裁判所)に不法行為による損害賠償請求か不当利得返還請求を提訴するしかありません。
この遺産分割前に遺産を処分された場合の遺産の範囲についての変更の開始時期(施行日)は、2019年(令和元年)7月1日です。