相続した株式・株券、そのままにしていませんか?
ご親族が亡くなり、遺品を整理する中で株式や株券が見つかったものの、「手続きがよくわからない」「何から手をつければいいのか…」と、そのままにしてしまっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、亡くなった方(被相続人)名義の株式は、預貯金などとは異なり、そのままでは相続人の財産として自由に扱うことができません。具体的には、相続手続(名義変更等)が完了するまでは、相続人が株式を売却して現金化したり、配当金等を相続人名義で受け取ったりする手続きが進められないことが一般的です。
法律上、被相続人が亡くなった時点から遺産分割が成立するまでの間、その株式は相続人全員の「共有」(遺産共有)の状態になります。これは、相続人全員が法定相続分に応じて権利を共有している特殊な状態で、議決権の行使や配当金の受領といった権利関係が非常に複雑になります。この状態を解消し、ご自身の財産として確定させるために必要なのが「名義変更」の手続きです。
手続きをせずに放置してしまうと、配当金等の受領手続きが進められないことがあるほか、長期間にわたり会社からの通知が届かず配当の受領もない状態が続くなど一定の要件を満たす場合には、会社法上の「所在不明株主」に関する手続の対象となり得るため、早めの確認が重要です。この記事では、株式の相続手続きについて、具体的な流れから注意点まで、専門家が分かりやすく解説します。相続に関する手続きの全体像については、「遺産整理に関するさまざまな手続きについて」で体系的に解説しています。
【最初に確認】名義変更か売却か?2つの選択肢と判断基準
相続した株式の手続きを進めるにあたり、最初に決めておくべき重要なことがあります。それは、その株式を「名義変更して保有し続ける」のか、それとも「売却して現金化する」のかという方針です。どちらを選ぶかによって、その後の手続きや税金が変わってきます。それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身の状況に合った選択をすることが大切です。

選択肢1:名義変更して「保有」するメリット・デメリット
株式をそのまま相続し、ご自身の名義に変更して保有し続ける選択肢です。
メリット
- 将来的な値上がり益への期待:企業の成長によっては、将来的に株価が上昇し、資産価値が増える可能性があります。
- 配当金や株主優待の受領:株式を保有し続けることで、定期的に配当金や株主優待を受け取ることができます。
- 故人の意思の継承:故人が応援していた企業の株主として、その資産運用の意思を引き継ぐことができます。
デメリット
- 株価変動リスク:株価が下落し、資産価値が減少するリスクを負うことになります。
- 管理の手間:株価のチェックや企業業績の確認など、保有し続けるにはある程度の管理が必要です。
- 遺産分割での不公平感:株式は価格が変動するため、他の相続人との間で不公平感が出やすい側面があります。例えば、不動産を相続した兄弟と株式を相続した自分で、将来的に資産価値に大きな差が生まれる可能性があります。
選択肢2:売却して「現金化」するメリット・デメリット
株式を売却して現金に換え、その現金を相続人間で分ける「換価分割」という方法です。
メリット
- 公平な遺産分割:現金を分けるため、1円単位で公平に分割でき、相続人間のトラブルを防ぎやすいです。
- 株価変動リスクの回避:売却してしまえば、その後の株価の変動を気にする必要がありません。
- 管理が不要:現金化すれば、株式を管理する手間から解放されます。
デメリット
- 譲渡所得税の可能性:株式を売却して利益が出た場合、その利益に対して譲渡所得税がかかる可能性があります。ただし、相続開始から一定期間内に売却した場合、相続税額の一部を取得費に加算できる特例があり、税負担を軽減できる場合があります。
- 売却タイミングのリスク:株価が低いタイミングで売却せざるを得ない場合、損失が出てしまう可能性があります。
- 企業の成長機会の損失:将来的に大きく成長する可能性のある企業の株式を手放すことになります。
参考情報として、国税庁のウェブサイトで相続財産を譲渡した場合の取得費の特例に関する詳細を確認できます。
参照:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁
【上場株式】相続手続きの基本的な流れと必要書類
証券取引所に上場している株式の相続手続きは、主に証券会社を通じて行います。ここでは、一般的な手続きの流れを4つのステップに分けて解説します。故人が取引していた証券口座の相続手続きは、以下の手順で進めていきましょう。
STEP1:取引証券会社の特定と相続発生の連絡
まず、被相続人がどの証券会社で取引をしていたかを特定する必要があります。ご自宅に届いている「取引残高報告書」や「配当金計算書」といった郵便物を探すのが最も確実な方法です。
もし書類が見つからず、どの証券会社を利用していたか分からない場合は、株式会社証券保管振替機構(ほふり/JASDEC)の所定手続により、法定相続人として開示請求(本人確認書類・相続関係書類等の提出)を行うことで、口座管理機関(証券会社等)を確認できる場合があります。
証券会社が特定できたら、その会社のコールセンターや支店に連絡し、口座名義人が亡くなったこと、そして相続手続きを開始したい旨を伝えます。この連絡により、口座は凍結され、相続手続き専用の書類が送られてきます。
STEP2:必要書類の準備と遺産分割協議
証券会社から案内された必要書類を準備します。一般的に、以下のような書類が求められます。
- 証券会社所定の相続手続依頼書
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本類
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書(相続人全員の実印を押印)または遺言書
- 相続人全員の印鑑証明書
特に重要なのが「遺産分割協議書」です。遺言書がない場合、どの株式を誰が相続するのかを相続人全員で話し合い、その結果を書面に残す必要があります。この協議がまとまらないと、手続きを進めることはできません。より詳しい戸籍の収集方法については、「相続人調査・戸籍謄本の取得代行について」をご覧ください。
STEP3:名義変更(口座移管)と売却手続き
必要書類を証券会社に提出し、不備がなければ手続きが進められます。株式を相続する方は、原則として被相続人と同じ証券会社にご自身の名義の証券口座を開設する必要があります。
書類審査完了後、被相続人の口座から相続人の口座へ株式が移される「口座移管」が行われます。これが完了して、初めて株式の名義変更が完了したことになります。
売却して現金化する場合も、まずは相続人の口座へ株式を移管する手続きが必要です。移管が完了した後、ご自身の判断で好きなタイミングで売却手続きを行うことができます。

【非上場株式】相続が難しい理由と手続きの進め方
証券取引所に上場していない「非上場株式」の相続は、上場株式に比べて格段に難しく、専門的な知識が求められる場面が多くなります。なぜ難しいのか、そしてどのように手続きを進めればよいのかを解説します。
なぜ難しい?非上場株式の相続が抱える3つの課題
非上場株式の相続には、主に3つの大きな課題があります。
- 価値の算定が複雑:上場株式のように市場価格がないため、会社の財産状況や収益性などを基に、専門的な方法(純資産価額方式、類似業種比準方式など)で株価を評価する必要があります。この評価が遺産分割や相続税計算の基礎となるため、非常に重要です。
- 換金性が低い(売却が困難):多くの非上場株式には「譲渡制限」が付されており、会社の承認がなければ自由に売却できません。また、買い手を見つけること自体が非常に困難です。
- 他の株主や会社経営への影響:特に同族経営の会社などの場合、相続によって経営に関心のない人が株主になったり、株主が分散したりすることで、会社の意思決定に支障をきたす可能性があります。
手続きの進め方:発行会社へのアプローチが鍵
非上場株式の相続手続きは、証券会社ではなく、その株式を発行している会社と直接やり取りをすることになります。
最初のステップは、発行会社に連絡を取り、株主が亡くなったことと相続手続きを進めたい旨を伝えることです。
その際に、名義書換(株主名簿の書換)に必要な手続きや書類を確認します。会社の定款に株式の譲渡制限に関する規定があるかどうかも、この段階で確認しておくことが重要です。遺産分割協議書などの基本的な書類は上場株式の場合と同様に必要となります。
会社から株式の売渡請求をされた場合の対処法
非上場株式の相続では、特殊なケースとして、会社側から「その株式を会社に売り渡してほしい」と請求されることがあります。これは、会社にとって望ましくない人物が株主になることを防ぐための制度で、会社の定款に定めがある場合に認められています(会社法第176条)。
もし会社から売渡請求をされた場合、相続人はこれに応じる必要があります。その際、売買価格について会社と協議することになりますが、合意に至らない場合は、最終的に裁判所が価格を決定することになります。このような事態に備えるためにも、専門家のアドバイスが不可欠です。
会社の法律に関する詳細は、電子政府の総合窓口(e-Gov)で確認できます。
参照:会社法|e-Gov法令検索
株式の相続手続きに関する注意点とよくある質問
最後に、株式の相続手続きを進める上での注意点や、ご相談者様からよくいただく質問についてQ&A形式で解説します。
Q. 手続きにかかる期間と費用の目安は?
期間の目安
上場株式の場合、書類に不備がなくスムーズに進めば、証券会社への連絡から名義変更完了まで2週間~1ヶ月程度が一般的です。一方、非上場株式の場合や、相続人間で遺産分割の話し合いがまとまらないケースでは、数ヶ月以上の期間を要することもあります。
費用の目安
ご自身で手続きを行う場合、戸籍謄本や印鑑証明書の取得にかかる数千円程度の実費が必要です。司法書士などの専門家に依頼する場合は、これに加えて専門家報酬が発生します。報酬額は事案の複雑さによって異なりますので、事前に見積もりを確認することをおすすめします。
Q. 相続税の申告はいつまでに必要?
株式の名義変更手続きとは別に、遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告と納税が必要です。この期限は「相続の開始があったことを知った日(通常は死亡日)の翌日から10か月目の日」とされており、その日が土曜日・日曜日・祝日等に当たる場合は翌日が期限となります。株式の評価額も相続財産に含まれますので、申告が必要かどうか早めに確認することが重要です。期限を過ぎると延滞税などのペナルティが課される可能性があるため、注意が必要です。相続開始後の手続きについては、「死亡後の手続き一覧」で詳しく解説しています。
Q. 名義変更しないまま放置するとどうなる?
手続きをせずに放置すると、様々な不利益が生じます。
- 配当金や株主優待が受け取れない:会社からの通知が届かず、権利を受け損なう可能性があります。
- 議決権を行使できない:株主総会に参加し、会社の経営に対して意思表示をすることができません。
- 売却したいときに売れない:株価が上がったとしても、名義が被相続人のままでは売却手続きができません。
さらに、長期間放置し会社と連絡が取れない状態が続くと「所在不明株主」とみなされ、最終的には株式の権利を失ってしまうリスクさえあります。相続の対象になるものを正確に把握し、速やかに手続きを進めることが何よりも大切です。
複雑な株式の相続手続きは司法書士にご相談ください

株式の名義変更や売却(換価)の手続きは、特に非上場株式が絡む場合や、相続人間で意見が分かれている場合には、非常に手間がかかり、専門的な判断が求められます。集めなければならない書類も多く、各証券会社や発行会社によって手続きの細かなルールが異なることも少なくありません。
当事務所にご相談・ご依頼いただけましたら、司法書士が必要な戸籍謄本等の書類収集、遺産分割協議書の作成支援、証券会社や発行会社への申請書類の作成・提出サポートなど、相続手続全体を一連の流れで支援いたします。私たちは、法的な観点から将来のトラブルを未然に防ぎ、円満な相続を実現するためのお手伝いをいたします。
株式を被相続人名義のまま放置しておくことは、後々のトラブルの種になりかねません。手続きについて少しでもご不安な点がございましたら、どうぞお早めにご相談ください。司法書士に依頼するメリットについては、「遺産整理業務を司法書士に依頼するメリット」でも詳しく解説しています。

