遺言書は財産のことだけじゃない?その役割と全体像
「遺言書を書いてみようかな」と考え始めたとき、多くの方が「財産の分け方を決めるもの」というイメージをお持ちではないでしょうか。もちろんそれは大切な役割の一つですが、実は遺言書に書けること、そして遺言書が果たせる役割は、もっとずっと幅広く、奥深いものなのです。
遺言書は、単に財産を誰に渡すかを指示するだけの書類ではありません。あなたがこれまで築き上げてきた大切な財産を巡って、愛するご家族が争うことのないように。そして、ご自身の「最後の想い」をきちんと伝えることで、遺されたご家族が前を向いて歩んでいけるように。そんな願いを込めた、大切な「ラストメッセージ」でもあります。
この記事では、遺言書に書けることのすべてを、司法書士が分かりやすく解説します。
- 法律上の効力を持つこと(法定遺言事項)
- 法的な効力はないけれど、大切な想いを伝えること(付言事項)
- 書いてしまうと無効になる可能性のある注意点
これらの全体像を正しく理解することで、「何が書けるんだろう?」という漠然とした不安は、「自分の場合はこう書こう」という具体的な安心へと変わるはずです。どうぞ最後までお付き合いください。
法的に効力があること(法定遺言事項)
遺言書に書く内容のうち、法律によってその効果が認められ、相続人などを法的に拘束する力を持つものを「法定遺言事項」と呼びます。これは、遺言書のいわば「骨格」となる部分です。例えば、「長男に自宅不動産を相続させる」と書けば、原則としてその通りに手続きが進められます。
法定遺言事項は、大きく分けると以下の3つのカテゴリーがあります。後の章で一つひとつ詳しく見ていきましょう。
- 財産に関すること:誰に何を、どのくらい相続させるかなど
- 身分に関すること:お子様の認知や、相続させたくない人の排除など
- 遺言の執行に関すること:遺言の内容を実現する担当者の指定など
想いを伝えるためのこと(付言事項)
一方で、法律的な効力はないものの、遺言書にぜひ書き添えていただきたいのが「付言事項(ふげんじこう)」です。これは、法定遺言事項に書いた内容の背景にある、あなたの「想い」や「感謝の言葉」を伝える部分です。
例えば、「なぜ長男に家を遺すのか」「他の兄弟には申し訳ないけれど、その分、預貯金で配慮したつもりだ」「みんな、今まで本当にありがとう」といった言葉です。
法的な強制力はありませんが、この一言があるだけで、相続人の方々の納得感は大きく変わります。数字や法律だけでは割り切れない感情のしこりを和らげ、円満な相続を実現するための、いわば「潤滑油」のような大切な役割を果たしてくれるのです。
【一覧】遺言書で法的に定められること(法定遺言事項)
それでは、具体的にどのようなことが法律で定められているのか、全体像を見ていきましょう。「こんなことも決められるんだ!」という発見があるかもしれません。ご自身の状況と照らし合わせながら、読み進めてみてください。

①財産の分け方や処分に関すること
遺言書で最も中心となるのが、財産の分け方に関する取り決めです。
- 相続分の指定:「妻に2分の1、長男に4分の1、長女に4分の1」というように、法定相続分とは異なる割合を指定できます。
- 遺産分割方法の指定:「自宅の土地建物は妻に、預貯金は長男に」というように、どの財産を誰に渡すかを具体的に指定できます。
- 遺贈(いぞう):相続人ではない人、例えば、内縁の妻やお世話になったご友人、NPO法人などに財産を譲ることができます。これは遺言でしか実現できません。
- 遺産分割の禁止:民法第908条に基づき、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)を禁止することができます。事業承継などで、すぐに財産を分割してほしくない場合に有効です(この期間は更新も可能です)。
- 特別受益の持ち戻し免除:生前に特定の相続人へ贈与した財産(特別受益)を、相続財産の計算に含めないよう指示できます。これにより、その相続人が受け取る財産が多くなります。
- 信託の設定:「私が亡くなった後、この財産は妻のために使い、妻が亡くなった後は孫に渡す」といった、長期的な財産の管理・承継方法を指定できます。
②子どもの認知など身分に関すること
財産だけでなく、人の身分関係についても遺言で定めることができます。これらは、特定の人の人生に大きな影響を与える重要な項目です。
- 子の認知:婚姻関係にない女性との間に生まれた子(婚外子)を、自分の子として法的に認めることができます。認知された子は相続人となります。
- 未成年後見人の指定:ご自身が亡くなることで、未成年のお子様に親権者がいなくなってしまう場合に備え、信頼できる人を後見人として指定できます。お子様の将来を守るために非常に重要な項目です。
- 相続人の廃除:ご自身に対して虐待や重大な侮辱などを行った相続人について、その相続権を剥奪するよう家庭裁判所に求める意思表示ができます。ただし、これは非常に厳しい要件があり、感情的な理由だけでは認められにくいのが実情です。
③遺言内容の実現に関すること(遺言執行)
遺言書に書いた内容を、ご自身が亡き後にスムーズかつ確実に実現してもらうための取り決めです。
- 遺言執行者の指定:不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約・分配など、遺言の内容を実現するための手続きを行う「遺言執行者」を指定できます。相続人の代表者を指定することも可能ですが、手続きが煩雑であったり、相続人間で利害が対立したりする可能性がある場合は、公平な立場で迅速に手続きを進められる司法書士などの専門家を指定しておくと安心です。
遺言書に書いても法的な効力がないこと
「これも遺言書に書いておきたい」と思うことの中には、残念ながら法律上の強制力を持たないものや、書き方を間違えると遺言書全体が無効になってしまう可能性のあるものも存在します。ここでしっかりと区別して理解しておきましょう。
希望は伝えられるが、強制力はない事項
これらは、先ほどご紹介した「付言事項」として記載する内容です。法的な拘束力はありませんが、ご家族へのメッセージとして大切な意味を持ちます。
- 葬儀や納骨の方法についての希望:「葬儀は家族だけでささやかに行ってほしい」「散骨してほしい」といった希望。
- ペットの世話のお願い:「愛犬の〇〇を、長女の△△に託したい」といったお願い。
- 家族への感謝の言葉や人生観:「今までありがとう」「家族仲良く暮らしてほしい」といったメッセージ。
- 財産分けの理由:「なぜこのような分け方にしたのか」という背景説明。
これらはあくまで「お願い」であり、ご家族が必ず従わなければならない義務はありません。しかし、あなたの最後の願いとして尊重され、円満な相続の助けとなることが期待できます。

記載すると遺言書全体が無効になる可能性のあるNG事項
良かれと思って書いたことが、かえって遺言書全体の効力を失わせてしまう危険性があります。特にご自身で作成する「自筆証書遺言」では注意が必要です。
- 形式の不備:自筆証書遺言は、原則として全文・日付・氏名をすべて自書し、押印することが法律で厳格に定められています。ただし、平成31年(2019年)1月13日の法改正により、財産目録についてはパソコンでの作成や、通帳のコピー・登記事項証明書などを添付する方法も認められました。日付が「令和〇年〇月吉日」となっていたり、押印がなかったりすると、それだけで遺言書全体が無効になってしまいます。
- 共同遺言:「夫婦連名で一つの遺言書を作成する」といった共同遺言は法律で禁止されており、無効です。遺言書は必ず一人一通で作成しなければなりません。
- 公序良俗に反する内容:例えば、「愛人に全財産を遺贈し、長年連れ添った配偶者や子の生活を一切顧みない」といった内容は、社会の良識に反するとして、その部分または遺言全体が無効と判断される可能性があります。
- 遺留分を完全に無視した内容(無効ではありませんが):兄弟姉妹以外の法定相続人には、最低限の遺産を受け取る権利「遺留分」が保障されています。遺言で遺留分を侵害すること自体は可能ですが、侵害された相続人は後から「遺留分侵害額請求」を行うことができ、結果として争いの火種を残すことになります。
参考:法務省:自筆証書遺言に関するルールが変わりました。(※平成31年1月13日施行の法改正により、財産目録は自書でなくてもよいとされました。)
定められない希望を実現するための代替策
「遺言書では法的な効力がないのか…」とがっかりされた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ご安心ください。遺言書以外の制度を活用することで、あなたの希望を実現できる可能性があります。ここでは、その代表的な方法を2つご紹介します。
生前の財産管理や医療に関する希望:任意後見・家族信託
「自分が認知症になったら、この自宅を売却して施設に入りたい」「判断能力が衰えても、長男に財産管理を任せたい」といった、ご自身の生前の財産管理や療養看護に関する希望は、遺言書では定めることができません。遺言書は、原則として亡くなった後に効力が発生するものだからです。
このような希望を実現するには、「任意後見契約」や「家族信託契約」といった生前契約が有効です。これらは元気なうちに契約を結んでおくことで、将来の不安に備えることができます。

- 任意後見契約:将来、判断能力が不十分になったときに備え、あらかじめご自身で選んだ代理人(任意後見人)に、財産管理や身上監護に関する事務を任せる契約です。公正証書で作成し、法務局で登記することが必要です。
- 家族信託契約:ご自身の財産を信頼できる家族に託し、ご自身が定めた目的(例えば、自分の生活費や介護費に充てるなど)に従って管理・処分してもらう契約です。不動産を信託する場合は信託登記が必要となるなど、専門的な知識が求められます。
これら生前契約は、遺言書と組み合わせることで、生前から亡くなった後まで、切れ目のない安心を設計することができます。
亡くなった後の手続きに関する希望:死後事務委任契約
「葬儀や納骨の手配をしてほしい」「役所への死亡届などを済ませてほしい」「飼っているペットの新しい飼い主を探してほしい」といった、亡くなった後の様々な事務手続き(死後事務)も、遺言書で法的に強制することはできません。
これらの希望を確実に実現したい場合には、「死後事務委任契約」が役立ちます。これは、生前のうちに信頼できる人や法人に、亡くなった後の諸手続きを依頼しておく契約です。
特に、おひとり様や、ご家族に負担をかけたくないと考えている方にとって、安心して最期を迎えるための有効な手段となります。
遺言書作成で迷ったら、専門家へ相談を
ここまで、遺言書で定められること、そして定められないことについて詳しく見てきました。法定遺言事項だけでも多くの種類があり、どの項目をご自身の遺言書に盛り込むべきか、どう表現すれば法的に有効で、かつご自身の想いが伝わるものになるのか、迷われることも多いのではないでしょうか。
遺言書は、あなたと、あなたの大切なご家族の将来に関わる、非常に重要な書類です。万が一、形式の不備で無効になってしまったり、内容が曖昧でかえって争いの原因になったりしては、元も子もありません。
司法書士はあなたの「想い」を法的に有効な形にします
私たち司法書士は、単に法律のルールに沿って書類を作成するだけではありません。あなたの「本当の想い」はどこにあるのか、ご家族構成や財産状況、そして何よりご家族へのメッセージを丁寧にお伺いすることから始めます。
お話をじっくりと伺った上で、法的に有効であることはもちろん、あなたの想いが最も伝わるような文章を一緒に考え、ご提案させていただきます。司法書士は、あなたの想いを法的に確かな形にするための、頼れるパートナーです。
名古屋高畑駅前司法書士事務所(所在地:愛知県名古屋市中川区高畑1丁目207番地 アーバンオクムラ301)では、代表司法書士(愛知県司法書士会所属)である私、古島が必ず直接お話を伺います。「先生」ではなく、ひとりの人間として、あなたの心に寄り添うことをお約束します。

名古屋高畑駅前司法書士事務所の無料相談でできること
「いきなり依頼するのは不安…」「ちょっと話を聞いてみたいだけなんだけど…」そんな方も、どうぞご安心ください。当事務所では、遺言書に関するご相談は「何時間でも」「何回でも」完全に無料です。
無料相談では、例えば以下のようなことをご一緒に整理できます。
- あなたの希望のうち、何が法定遺言事項で、何が付言事項になるのかの仕分け
- ご自身の状況に合った遺言書の種類(自筆証書遺言か、公正証書遺言か)のアドバイス
- 遺言書が無効にならないための具体的なチェックポイントのご説明
- 遺言書以外の制度(家族信託や任意後見など)も検討すべきかどうかの判断
土日祝日や夜間の相談にも対応しております。まずはお気軽な気持ちで、あなたの想いをお聞かせいただけませんか。ご連絡を心よりお待ちしております。

