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公正証書遺言に印鑑が押してない!
ときどきある質問です。
「公正証書遺言に印鑑が押してないけど有効なのですか?」
結論から先にいいますと、大丈夫です。
公正証書遺言に遺言者の朱肉での押印はなくても有効です。
「遺言に印鑑がないと無効」ということを知っている方は多いとおもいます。
確かにそのとおりです。
その知識があり、公正証書遺言をみると遺言者の「印鑑がない」とびっくりするのが普通の感覚ではないでしょうか。公正証書遺言には㊞と印刷されていますが、実際に赤の朱肉で押印されていません。ですが安心してください。皆さんがお持ちする公正証書遺言には印鑑の朱肉での押印はなくていいのです。印鑑は公証役場に保管されている原本に押してあるのです。私たちが持っているのは公正証書遺言の正本と謄本です。公正証書遺言の正本と謄本には遺言者の押印はありません。公正証書遺言の正本と謄本の㊞の印字は原本に印鑑が押してあるということなのです。
実際に遺言者が亡くなって相続手続きする際にはこの遺言者の押印のない公正証書遺言の正本か謄本を使用します。これで問題なく相続手続きできます。
なお、びっくりしてこの公正書遺言の㊞の印字箇所に印鑑を押してはいけません。押したくなる気持ちはよくわかります。しかし、ここに印鑑を押すと偽造とみなされ遺言書自体が無効となるおそれがあるのです。ですから公正証書遺言の正本と謄本の㊞の印字箇所に印鑑を押すことは絶対にしないでください。
公正証書遺言を作成した遺言者もこのことを知らないことがままあります。公正証書遺言を作成する際に公証役場がこのことを説明してくれないこともあるからです。不親切ですね。でも本当に説明してくれないこと結構あります。
実は、司法書士や弁護士などの法律家もなりたての頃は結構びっくりします。知り合いの新人弁護士から「公正証書遺言に印鑑がないけど大丈夫なの?」と電話がかかってきたこともありました。私も司法書士になりたてのころは知識として知っていましたが何か不安でした。
安心してください。公正証書遺言に遺言者の印鑑の朱肉での押印はなくていいのです。
ちなみに遺言者の氏名も直筆でなく印字ですがこちらも大丈夫です。公証役場に保管してある原本にだけ直筆の署名があるのです。
遺言のことについて不安がある方は専門家に相談してみてください。
自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言はどちらの方がいいの?
令和2年7月10日より自筆証書遺言書保管制度がはじまりました。詳細は前回のコラム「 自筆証書遺言書保管制度が開始されました 」をご覧ください。
簡単にいいますと、自分で書いた自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)が預かってくれるというものです。今まで、自分で作成する自筆証書遺言は自分で保管しておくしかありませんでした。すると、紛失したり、自分の死後に相続人にみつけてもらえなかったり、財産をもらえない相続人が隠してしまったりするおそれがありました。それを防ぐために公証役場で作成・保管してもらえる公正証書遺言を選択することが多かったのです。
しかし、これからは自筆証書遺言も法務局(遺言書保管所)というお役所で保管してもらえることになりました。公正証書遺言ほど費用をかけたくないが、自分で遺言を作成して保管しておくのは大変だと遺言作成に躊躇していた方が、この制度により遺言を作成しやすくなったといえそうです。
自筆証書遺言を作成し自身で保管しておくよりは自筆証書遺言書保管制度の方が有益だというのは明らかです。自身で保管しておかなくて済むので紛失・偽造・隠匿のおそれがないということはもちろんです。さらに、自筆証書遺言書保管制度では通常自筆証書遺言に必要な遺言書の検認手続きが必要ありません。検認とは、遺言の内容を明確にして偽造・変造を防止するための手続きです。遺言者の死後、家庭裁判所に原則相続人全員が集合しなければならず手間と時間・費用がかかります。自筆証書遺言書保管制度では保管申請の際にすでに法務局(遺言書保管所)で遺言書の外形がチェックされており、法務局(遺言書保管所)で遺言書原本が保管されていることから偽造・隠匿のおそれがないため裁判所での検認手続きはおこなわれないのです。
では、公正証書遺言と比較すると本当のところどうなのかという疑問がわいてくるとおもいます。
今回は自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言とを比べたときのメリット・デメリットをあげ、どちらの方がいいのかについて述べさせていただきたいとおもいます。
自筆証書遺言書保管制度の公正証書遺言との比較でのメリットからです。
まずは、自筆証書遺言書保管制度は費用が抑えられることです。
遺言書保管申請の手数料は1通3,900円です。公正証書遺言なら遺言に記載する遺産額にもよりますが数万円はかかります(勿論どちらも専門家に作成サポートを依頼すれば別途報酬が発生します)。
次に、自筆証書遺言書保管制度では、遺言者が希望した場合、遺言者が死亡すると相続人・受遺者・遺言執行者のうち1人に遺言が保管されている旨が通知されることです。
公正証書遺言の場合、遺言者が死亡しても相続人等に対して公証役場から遺言がある旨の通知はされません。すると遺言者の死亡後に相続人らが遺言の存在に気付かず遺言はないものとして相続手続きされてしまうことがあります。
しかし、自筆証書遺言書保管制度では、遺言者が希望しておけば、相続人等に遺言者死亡の事実と遺言が保管させていることが通知されます。これは特筆すべき点です。遺言者は相続人に遺言の存在を知らせておかなくても自身の死後に遺言の存在に気付いてもらえます。この点は安心ですね。
ただし、気をつけなければならないのは、通知対象者の住所が変更された場合、遺言者が変更届をしないと通知が届かないことになります。遺言者がそこまで把握できるのか問題となりそうです。
なお、この「死亡時の通知」の運用は令和3年度以降頃からの予定とされています。
では次に、自筆証書遺言書保管制度のデメリットです。
まず、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預ける際には、遺言者自らが法務局(遺言書保管所)に出向かなければなりません。遺言者が高齢で病院や施設に入っており自ら法務局(遺言書保管所)に出向けない人も多いでしょう。しかし、代理や郵送による手続きは認められていません。また、法務局(遺言書保管所)の職員が、病院や施設に遺言書を取りに来てくれることもありません。
この点、公正証書遺言であれば、公証役場の公証人が、遺言者が入院している病院や施設まで来てくれます。
なお、公正証書遺言では遺言者が署名できなくても公証人が代筆してくれます。
次に、ここが一番重要な点といっていいでしょう。
自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けるとき、遺言の内容まではみてくれません。法務局(遺言書保管所)は法的に有効か無効かまでは判断してくれないのです。なぜなら自筆証書遺言書保管制度とは単に遺言書を預かってくれる制度にすぎないからです。
したがって、不備のある遺言が量産されてしまうことが予想されます。
なお、法務局では遺言の作成に関する相談には一切応じてもらえません。
しかし、公正証書遺言であれば内容までみてくれるので無効な遺言になってしまう可能性は低いでしょう。
遺言書保管申請のときに本人確認はおこなわれますが、認知症の程度など遺言能力についての確認はおこなわれません。認知症が進行し、遺言能力がない状態で作成された遺言は無効です。相続開始後に、ある相続人から高度の認知症の状況下で書かれた遺言なので無効だと争われるかもしれません。
この点、公正証書遺言であれば作成時に遺言能力についても確認されるので無効な遺言になってしまう可能性は低いでしょう。
場合によって厄介なのは遺言者が亡くなった後、必ず相続人全員の戸籍・住民票が必要になることです。これは遺言者が亡くなった後、相続手続きをするには必ず相続人が申請により法務局(遺言書保管所)から「遺言情報証明書」を取得しなければならないのですが、その際に相続人全員の戸籍・住民票が必要になるのです。この時、もし相続人の中に海外在中の者や行方不明者がいたら厄介なことになります。
このような場合、もし公正証書遺言であれば亡くなられた方と遺産を受取る方の戸籍・住民票だけで足りるのでスムーズにいきます。
もう一つ場合によって厄介なのは、自筆証書遺言書保管制度を利用すると、相続手続きの際に必ず相続人全員に遺言があることが通知されるということです。遺言者が亡くなると必ず自動的に相続人全員に通知がされるわけではありません。遺言者が亡くなると相続手続きのために相続人から法務局に「遺言情報証明書」の発行の申請をすることになります。この「遺言情報証明書」の発行の申請がされると、相続人全員に遺言がある旨が通知されるのです。これは、他の相続人にも遺留分請求の機会を与えるための保護だとおもいます。しかし、遺言者としては秘密裏に遺産を分け与えたいとおもうこともあるでしょう。
このような場合、公正証書遺言であれば遺言の存在を他の相続人に通知されることはありません。したがって、遺言内容による相続手続きがスムーズにいく可能性が高くなります。
では上記を踏まえて、自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言はどちらの方がいいのでしょうか?
場合にもよりますが、個人的には作成時に遺言内容まで確認してくれて遺言内容・遺言能力が担保される公正証書遺言の方がいいとおもいます。
たしかに公正証書遺言の方が費用はかかります。
しかし、遺言が無効になってしまったら元も子もありません。遺言が無効とわかるのは遺言者の死後つまり相続開始後です。遺言者が亡くなってしまえば遺言の訂正はできません。もはや取り返しがつかないのです。困るのは残された相続人です。
公正証書遺言の場合、遺言者死亡後の遺言の存在に関する「死亡時の通知」がありませんが、それは遺言者が相続人らに遺言の存在を伝えておいたりしておけば特に不利益にはならないとおもいます。
やはり法律家としては安心感抜群の公正証書遺言をお勧めしたいところです。
以上の点を踏まえて、遺言書を作成するときは自筆証書遺言書保管制度なのか公正証書遺言なのかよく検討して下さい。
遺言書作成について不安な方は専門家に相談してみてください。
自筆証書遺言書保管制度が開始されました
令和2年7月10日より自筆証書遺言書保管制度が開始されました。
今まで、自筆で書いた自筆証書遺言は自身で保管しておくしかありませんでした。すると遺言者の死後に、不利益な相続人が遺言書を破棄したり、隠したり、偽造することがあります。また、遺言書を紛失したり、相続人に遺言書をみつけてもらえないこともあります。これらのリスクが遺言書を書くことの妨げになっていると考えられていました。そこで、遺言のさらなる普及のために自筆証書遺言書保管制度ができたのです。
自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)が保管してくれるという制度です。これにより、遺言書の紛失や偽造などによる紛争のおそれを防止できます。
おおまかな手続きの流れは、
① 自筆証書遺言を作成する
↓
② 自筆証書遺言を本人自身が法務局に持込む(代理・郵送は不可)
↓
③ 法務局が自筆証書遺言を保管する
↓
④ 遺言者が亡くなると相続人・受遺者・遺言執行者のうち1人に、遺言者の死亡及び遺言が保管されている旨の通知がされる(遺言者が希望する場合のみ。ただし運用は令和3年度以降頃からの予定)
↓
⑤ 遺言者が亡くなったら相続人・受遺者等が「遺言書情報証明書」を法務局(遺言書保管所)より取得する
↓
⑥ 相続人・受遺者等が「遺言書情報証明書」を使い相続手続き(不動産の名義変更・預貯金解約など)をする
保管できる法務局は、「遺言者の住所地」「遺言者の本籍地」「遺言者の所有する不動産の所在地」のいずれかを管轄する遺言書保管所です。
以下、手続きの流れの詳細です。
遺言書保管の申請には必ず事前の予約が必要です。
遺言書保管申請は、遺言者自らが法務局(遺言書保管所)に出向かなければなりません。郵送や代理人による申請は認められていません。
公正証書遺言の場合、公証人が病院や施設等に出張してくれますが、自筆証書遺言書保管制度は法務局の職員は出張してくれません。この点は注意してください。
遺言書保管申請に必要なものは、申請書・遺言書(作成様式が定められています、ホチキス止めと封筒は不要)・本籍の記載のある住民票の写し(作成後3か月以内)・本人確認書類・手数料(1通3,900円)です。
法務局(遺言書保管所)での申請時に遺言者の本人確認がおこなわれます。
ここが重要なところですが、遺言書保管申請の際、遺言の内容までは審査してくれません。内容的に無効な遺言でも法務局(遺言書保管所)は指摘してくれません。それは単に遺言を預かる制度だからです。法務局(遺言書保管所)という公共の機関が保管してくれても遺言が有効であることのお墨付きをもらえるわけではないのです。
ここも遺言内容を確認してくれる公正証書遺言とは異なる点です。
ちなみに、法務局では遺言の作成に関する相談には一切応じてもらえません。このことは法務省のサイトにも掲載されています。
なお、遺言書保管申請の際、遺言書は返却してくれないのでコピー等をとっておきましょう。
遺言者はいつでも保管された遺言を閲覧することができます。
しかし、相続人や受遺者は遺言者が生存している間は閲覧することができません。遺言者は遺言内容を他者に秘密にしておきたいこともあるので当然ですね。
一度預けた遺言を撤回して返してもらうことは可能です。
以下は、遺言者が亡くなった後の詳細です。
遺言者が希望した場合、遺言者が亡くなると、相続人・受遺者・遺言執行者のうち任意に選んでおいた1人に遺言者の死亡と遺言が保管されている旨が通知されます。ここが公正証書遺言と異なる特筆すべき点です。公正証書遺言が作成されていても、相続人らがそのことを知らず遺言はないものとして相続手続されてしまうことがしばしばあります。しかし、この自筆証書遺言書保管制度では遺言者が亡くなると死亡の事実と遺言の存在が相続人等に通知されます。これは今までにない画期的な制度だといえます。専門家の予想をこえる内容で、遺言普及について法務省の本気度が伝わってきます。
ただし、この「死亡時の通知」の運用は令和3年度以降頃からの予定とされています。
遺言者が亡くなると、相続人・受遺者・遺言執行者は、「遺言保管事実証明書」の請求を遺言書保管所に対してすることができます。
もし、遺言書が保管されていることがわかれば、「遺言書情報証明書」を請求します。
「遺言書情報証明書」申請の添付書類として、被相続人の出生から死亡までの戸籍・相続人全員の戸籍謄本・相続人全員の住民票の写し(作成後3か月以内)・手数料1通1,400円が必要です。
この「遺言書情報証明書」の請求がされると、請求者以外の相続人等へ遺言書を保管している旨が通知されます。
したがって、遺言がある旨が相続人全員に知られることになります。この点が公正証書遺言とは異なります。
この「遺言書情報証明書」を使用して、相続による不動産の名義変更や預貯金の解約などの相続手続きをします。自筆証書遺言の原本は法務局に保管されたままですので使用しません。
なお、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、遺言書の家庭裁判所での検認手続きは不要です。検認とは、遺言の内容を明確にして偽造・変造を防止するための手続きです。
通常、自筆証書遺言は、発見されると開封する前に家庭裁判所で検認手続きをしなければなりません。しかし、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、作成時に遺言書を法務局(遺言書保管所)が確認しているから検認が不要なのです。
自筆証書遺言の検認には原則相続人全員が家庭裁判所に集合しなければなりません。そして、この検認には通常1~2か月を要します。自筆証書遺言書保管制度を利用すればこの検認が不要であるといことは相続人等にとってはかなりの負担減です。
以上が、自筆証書遺言書保管制度の簡単な内容です。
次回のコラムでは、この自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言を比較してどちらがいいのか比較してみたいとおもいます。
遺言書の作成につき不安な方は専門家に相談してみてください。
遺産分割協議が終わったあとに遺言書が見つかったらどうなるのか?
遺産について相続人全員で遺産分割協議をおこない遺産分けが終了しました。
しかし、その後に遺言書がみつかることがあります。
この場合、すでに終えた遺産分割協議はどうなるのでしょうか?
まず前提知識として、遺言は遺産分割協議に原則優先します。遺言があれば原則そのとおりに遺産分けをしなければなりません。亡くなった遺言者の意思を第一に尊重するためです。
しかし、これには例外があります。
遺産分割協議終了後に遺言がみつかった場合、遺言の内容によりどうなるのか結論が異なります。
まず、遺言の内容が、遺産を相続人ではなく第三者(甥・姪や愛人など)に承継させる内容だった場合についてです。
この場合、すでにおこなった遺産分割協議は無効となります。遺言の内容通りに手続きし直さなければなりません。遺産を承継する第三者の利益を害することはできないからです。遺言者の意思を尊重するというわけです。もちろん、その第三者が放棄をすれば別ですが。
次に、遺言の内容が、遺産を相続人だけに承継させる内容だった場合についてです。
この場合、相続人全員が遺言の内容ではなく遺産分割協議の内容で了承するのであれば、すでにおこなった遺産分割協議は有効です。すでにした相続手続きをやり直す必要はありません。
しかし、相続人の中に遺言があるのなら遺言の内容に従うべきと考える者が一人でもいるのなら遺産分割協議は無効です。遺言の内容通りに相続手続きをし直さなければなりません。
ただ、遺言の内容に子供の認知などが含まれていた場合、すでにおこなわれた遺産分割協議は無効です。遺産を取得する認知された子の権利が害されるからです。
また、あとから発見された遺言書に「遺言執行者」が定められている場合には、この遺言執行者の判断に委ねられます。遺言執行者が遺言通りにすべきと考えればそれに従うことになります。
なお、相続人が遺言書を隠していた場合などには、その相続人は相続欠格となり相続権を失います。もしその相続欠格者に子がいればその子が代襲相続人となります。この場合、相続人自体がかわってきますので以前の遺産分割協議は相続人でない者が協議に参加していたことになり無効となります。代襲相続人を含め再度遺産分割協議が必要となります。
遺産分割協議と遺言について不安な方は専門家に相談してみてください。
遺言があったら必ず従わなければならないのか?
遺言があったら必ずそれに従って遺産分けしなければならないのでしょうか?
遺言があれば遺言者の意思尊重のため遺言通りに遺産分けしなければならないのが原則です。しかし例外があります。
以前コラムにもあげた兄弟姉妹以外の相続人には最低限保障されている相続分たる遺留分があるので、遺留分を害する遺言はもし相続人が遺留分を主張すればその分については遺言に従わなくていいといえます。
でも今回は遺留分以外の別のおはなしです。
実は、相続人全員で遺産分割協議をおこない相続人全員の合意があれば遺言と異なる内容の遺産分けも可能です。相続人のうちの1人でも反対すれば遺言の内容と異なる遺産分けはできません。
遺言は遺言者の意思を第一に尊重しなければなりません。
しかし、遺言の目的は相続争いを防止することにあります。相続人全員が遺言書と異なる遺産分けを望むのであれば相続争いにはなりません。
また、遺言の内容通りに遺産分けしても、その後すぐ相続人間で譲渡してしまえば遺言の内容通りに相続手続きすることは無意味となります。
さらに、遺言を作成したときと事情がかわっている場合もあります。
そこで、相続人全員の合意があれば遺言の内容と異なる割合・方法で遺産分けすることが認められているのです。
ただし、遺言の内容が「相続人ではない第三者(甥・姪や愛人など)に遺贈する場合」や「子供を認知する場合」などには遺産を取得するその第三者の利益を害することになるので遺言に従わなければなりません。
また、遺言に遺言執行者が定められている場合、遺産分割協議をするにはその遺言執行者
の同意も必要です。
その他、遺言に必ず従わなければならない例外事項がいくつかあります。
遺言があっても、どうしても異なる割合で遺産分けしたいのであれば、専門家に相談してみてください。遺言者が遺言作成時によく考えていなかった場合や、事情の変更により、遺言の内容と異なる遺産分けをした方が客観的に合理的であることもあります。
エンディングノートは遺言ではありません
先日とある相談会で「エンディングノートを書いたから自分の死後に子供たちが遺産分けで揉めることはないだろう」と仰っていた方がおられました。詳しく聞いてみると、この方はエンディングノートと遺言は同じものだとおもっていたのです。
しかし、エンディングノートと遺言は別ものです。エンディングノートは遺言ではありません。この二つの違いは強制力があるか否かです。
遺言は記載された内容に強制力があります。法的拘束力があるのです。原則、遺言と異なる内容で遺産分けすることはできません。
これに対しエンディングノートには強制力がありません。法的拘束力がないのです。法的には一切効力は生じません。いうなれば単なるノートやお手紙です。書いた人の願望にすぎません。
ですので、エンディングノートを書いたからといって自身の死後に相続争いはおきないと安心はできません。死後に遺言ではなくエンディングノートしかなかった場合には、遺産分けにつき相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。自分の死後に遺産について相続人間で揉めてほしくなければ遺言を作成しておいたほうがいいでしょう。
結論先出しにしてしまいましたが、ご存じない方のためにエンディングノートとはなにかを説明させていただきます。
明確な定義はありませんがエンディングノートとは、人生の終末期に迎える死に備えて自身の希望を書き留めておくノートです。具体的には、自分が認知症や重病になったときに備えて家族などに対して自分のこと、財産のこと、連絡先、希望することなどを知らせておきたいことを書き記します。
例えば、
「老後はこう過ごしたい」
「葬儀はこうしてほしい」
「葬儀にはあの人をよんでほしい」
「重要なものはあそこにしまってある」
「自分が死亡したらこうしてほしい」
などです。
また、プロフィールや自分史を書くことも多いでしょう。
エンディングノートでは、人生の終焉だけに目を向けるのではなくこれまでの人生を振り返ります。過去のいろいろな出来事を思い出すことによって、見過ごしてきた幸せに気づくことができ新たな決意をもってこの先の人生を進めることができるという効果が期待できるかもしれません。
エンディングノートを書くメリットは、「家族に思いを託すことができる」ことと「これまでの人生を振り返ることができること」です。
遺言と異なり、書き方が決められているわけではありません。何に書いてもかまいません。書店や文房具店に行けばいろいろな種類のエンディングノートが販売されています。これらのエンディングノートはノート形式で既に項目が印刷されています。ですから簡単にエンディングノートを書くことができます。費用もほとんどかかりません。
しかし、エンディングノートには強制力がありません。法的拘束力がありません。そこに希望が記載されていたとしても相続人がそれに従う義務はありません。ここが遺言との大きな違いです。
まとめ
・遺言に強制力(法的拘束力)はあるが、エンディングノートに強制力(法的拘束力)はない。
いま流行りのエンディングノートではありますが、自分の死後に遺産分けで相続人間での争いを防止したいのであれば遺言を作成しておきましょう。
不安な方は専門家に相談してみてください。
遺言執行者を定めていない遺言はトラブルの元!
結論先出しですが、遺言には必ず遺言執行者を定めておきましょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする者です。遺言が効力を生じるのは遺言者が亡くなった後ですから、遺言の執行を遺言者自身が行うことは不可能です。そこで、遺言執行者は遺言者が亡くなった後、遺言者にかわって遺言の内容を実現するために必要な手続きをおこなうのです。
遺言に遺言執行者の記載がなくても遺言の効力には何ら問題ありません。その遺言も有効です。しかし、遺言執行者を定めておかなかったために遺言内容が実現できず遺言をかいたことが全く意味をなさなくなってしまうことがあります。
例えばよくある事例です。遺言者の推定相続人が妻と長男・次男の計3人だとします。遺言者たる夫が「預金の全てを妻に相続させる」との遺言を作成しました。そして遺言者たる夫が亡くなり相続が開始したので、妻が遺言書を持って銀行に亡夫名義の預金を解約しにいきました。ところが銀行から「遺言執行者の記載がないので長男・次男の署名押印と印鑑証明書もないと手続きできません」といわれ解約できませんでした。
通常、被相続人名義の預金の相続手続き(解約)をおこなう場合、相続人全員の署名押印と印鑑証明書が必要となります。遺言書がありかつ遺言執行者がいる場合には相続人全員の関与は必要なく、遺言執行者の署名押印・印鑑証明書だけで手続き可能なのです。上記の事例の場合、長男・次男が手続きに応じてくれればいいのですが、長男・次男に「自分にも相続分はあるはずだから手続きには協力できない」といわれれば遺言の内容通りに遺産分けをすることができなくなってしまいます。あらためて相続人全員で遺産分割協議をする必要がでてきます。この亡夫名義の預金口座は凍結されてしまうので、この預金から生活費を捻出していた場合や、相続税の申告期限までに現金化できず納税資金が準備できなくなったら一大事です。これでは手間をかけて遺言を作成したことが無駄になってしまいます。
遺言で相続人以外の方に財産を遺贈していた場合はなおさら揉める可能性が高いでしょう。
もちろん遺言者が亡くなった後に裁判所に対して遺言執行者の選任申立ては可能ですが時間と手間・費用がかかってしまいます。
遺言執行者には未成年者と破産者以外なら誰でもなることができます。相続人あるいは相続人でない受遺者もなることができます。また、司法書士などの法律家もなることができます。紛争が予想される場合には法律家を遺言執行者に指定しておくことが多いです。
以上のように、遺言の内容を必ず実現できるように、遺言には必ず遺言執行者を定めておきましょう。
まとめ
遺言には必ず遺言執行者を定めておきましょう
不安がある方は専門家に相談してみてください。
自筆証書遺言の方式緩和についての注意点
先月、とある施設での相続・遺言相談会で、ある相談者の方から「法律の改正で今年から遺言書は手書きでなくパソコンで作ってもよくなったんだよね?」と聞かれました。
しかし、これは間違いです。以下、詳しく説明します。
今まで、自筆証書遺言は全文を手書きで書かなければなりませんでした。日付など、たとえほんの一部分だけ手書きでなくても無効でした。
それが、2019年1月13日から、一部手書きでなくてもよいと緩和されました。その一部手書きでなくてもよいとされたのは、「財産目録」の部分です。「財産目録」のみ、パソコンで作成したり、銀行の通帳のコピーを添付したり、不動産の登記事項証明書のコピーを添付してもよくなったのです。
自筆証書遺言の本文は、従来通りすべて手書きでなければなりません。この点に気を付けて下さい。
さらに、先日別の相続・遺言相談会ではこんなことがありました。ある相談者の方から「遺言書を書いたので持ってきたからみてほしい」といわれたのでみてみると非常によくできていました。改正により「財産目録」は手書きでなくコピーでいいことも知っておられ、不動産の登記事項証明書のコピーが添付されており、私は「すごい!」と驚かされました。
しかし、よくみてみるとその「財産目録」に不完全な部分がありました。このままではその遺言は無効でした。その不完全な部分とは、財産目録に署名・押印がない点です。
この「財産目録」には遺言者が署名・押印しなければなりません。しかもすべてのページにです。これは忘れがちです。気を付けて下さい。
まとめますと
・2019年1月13日から
・自筆証書遺言のうち、「財産目録」の部分については、手書きでなくパソコンで作成したり、銀行
の通帳のコピーを添付したり、不動産の登記事項証明書のコピーを添付したりしてもよくなった
・その「財産目録」には、全てのページに署名・押印しなければならない
一見、改正により自筆証書遺言が書きやすくなったようにおもえますが、かえって書き方が複雑になり、無効な遺言書が増えてしまうのではないかと危惧しております。やはり、確実な遺言を残すのなら少々費用はかかりますが公正証書遺言の方がよいとおもいます。公正証書遺言なら、形式・内容のチェックが入るのみならず、偽造・紛失・相続開始後に誰にも発見されないというリスクも避けられます。仮に自筆証書遺言にするにしても、書き終えたら一度専門家にチェックしてもらうことをお勧めします。