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未成年者の相続手続きを司法書士が解説|特別代理人が鍵
相続人に未成年者がいる場合、手続きが特別になる理由
ご家族が亡くなられ、相続の手続きを進めようとしたとき、相続人の中に未成年のお子さまやお孫さまがいらっしゃる場合、普段の相続手続きとは少し異なる特別な配慮が必要になります。いったいなぜなのでしょうか?
その理由は、未成年者は法律上、単独で重要な契約を結んだり、財産に関する法律的な決定をしたりする「法律行為」ができない、という大切なルールがあるからです。例えば、お子さま名義の携帯電話を契約するとき、親御さまが代理で手続きをしますよね。それと同じように、誰かの財産をどう分けるかを決める「遺産分割協議」も、非常に重要な法律行為の一つなのです。
未成年者は遺産分割協議に直接参加できない
遺産分割協議は、相続人全員が集まり、「誰が、どの財産を、どれくらい相続するのか」を話し合って、全員で合意しなければ成立しません。これは、相続人一人ひとりの権利に関わる、とても大切な手続きです。
しかし、まだ社会経験や判断能力が十分でないとされる未成年者が、複雑な法律や財産の価値を理解し、ご自身の権利をしっかりと主張するのはとても難しいことです。そのため、法律は未成年者を守るために、遺産分割協議に直接参加することを認めていないのです。
原則は親権者(法定代理人)が手続きを代行する
では、未成年者はどうすればよいのでしょうか。原則として、親権者(お父さまやお母さま)が「法定代理人」として、お子さまに代わって遺産分割協議に参加したり、必要な書類に署名・押印したりします。
「なるほど、親である私が子どもの代わりにやればいいんだな」と思われるかもしれません。ほとんどの場合はその通りなのですが、相続のケースによっては、親御さまであっても代理人になれない、特別な状況が存在します。それが、この記事で最も重要なポイントとなる「利益相反」という問題です。
要注意!親が代理人になれない「利益相反」とは?
「利益相反(りえきそうはん)」という言葉は、少し難しく聞こえるかもしれません。簡単に言うと、「一方の利益になると、もう一方の不利益になってしまう関係」のことです。
相続手続きにおいて、お子さまの代理人である親権者自身も相続人である場合、まさにこの利益相反の関係にあたります。例えば、お父さまが亡くなり、相続人がお母さまと未成年のお子さまだったとしましょう。このとき、お母さまが「自分の相続分を多くして、子どもの相続分を少なくする」という内容の遺産分割協議を決めてしまうことができてしまいます。これでは、お子さまの正当な権利が守られません。
このように、親御さまご自身の利益とお子さまの利益がぶつかってしまう可能性があるため、法律はこのようなケースで親権者がお子さまの代理人になることを禁止しているのです。

利益相反にあたる具体的なケース
ご自身の状況が利益相反にあたるかどうか、具体的なケースを見てみましょう。
- 母親と未成年の子が相続人になるケース
夫が亡くなり、妻と未成年の子が相続人になる、最も典型的なパターンです。妻が多く財産をもらえば、子の取り分は減るため、利益相反となります。 - 複数の未成年の子を、一人の親が代理するケース
例えば、相続人が未成年の長男と次男の二人で、親権者である母親が二人の代理人になる場合です。長男に多くの財産を相続させると次男の取り分が減るため、子どもたちの間でも利益が対立します。この場合、母親は二人の代理人にはなれません。 - 親は相続財産を取得し、未成年の子は相続放棄をするケース
親は相続するのに、お子さまだけが相続放棄をする場合、「親が自分の相続分を増やすために、子に放棄をさせているのではないか」とみなされ、利益相反にあたる可能性があります。
利益相反の場合、「特別代理人」の選任が必須
では、利益相反にあたる場合、どうすれば手続きを進められるのでしょうか。そこで登場するのが「特別代理人(とくべつだいにん)」です。
特別代理人とは、その特定の遺産分割協議のためだけに、家庭裁判所によって選ばれる、未成年者の臨時的な代理人のことです。親権者に代わって、純粋に未成年者の利益だけを考えて、遺産分割協議に参加し、書類への署名・押印などを行います。
この特別代理人を選任する制度があるからこそ、利益相反の状況でもお子さまの権利がしっかりと守られ、公平な相続手続きを進めることができるのです。
特別代理人選任の手続きと流れを5ステップで解説
特別代理人は、自動的に誰かがなってくれるわけではありません。親権者などが家庭裁判所に「特別代理人を選んでください」と申立てをする必要があります。ここでは、その手続きの流れを5つのステップに分けて、わかりやすく解説します。
STEP1:特別代理人の候補者を決める
まず、誰に特別代理人になってもらうか、候補者を決めます。候補者に法律などの特別な資格は必要ありません。相続人以外の方で、お子さまのために公平な判断ができる方であれば大丈夫です。一般的には、祖父母やおじ・おばといった他の親族にお願いするケースが多いです。
もし、候補者として適当な親族が見つからない場合や、より中立的な立場の人にお願いしたいという場合には、司法書士や弁護士などの専門家を候補者にすることも可能です。私たちのような専門家が候補者となることで、その後の手続きもスムーズに進められるという利点があります。
STEP2:必要書類を収集する
次に、家庭裁判所へ申立てるための書類を集めます。一般的に必要となるのは、主に以下の書類です。
- 申立書(家庭裁判所のウェブサイトから取得できます)
- 未成年者と親権者の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
- 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案など)
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本など、相続関係がわかる書類一式
特に重要なのが「遺産分割協議書案」です。これは、「特別代理人が選ばれたら、このような内容で遺産分割をする予定です」という計画書のようなものです。この案の内容が、未成年者にとって不利なものでないかを家庭裁判所は厳しくチェックします。
STEP3:家庭裁判所へ申立てを行う
書類がすべて揃ったら、いよいよ家庭裁判所へ申立てを行います。申立て先は、親権者や候補者の住所地ではなく、「未成年者のお子さまの住所地」を管轄する家庭裁判所です。間違えないように注意しましょう。
申立てにかかる費用は、未成年者1人につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手代(数千円程度)です。
STEP4:家庭裁判所による審理
申立てが受理されると、家庭裁判所は提出された書類に基づいて審理を開始します。審理といっても、法廷に呼ばれるようなことは通常ありません。裁判官が書類を審査し、特に「遺産分割協議書案の内容が、未成年者の利益をきちんと守るものになっているか」という点を重点的に確認します。
内容に不明な点があれば、家庭裁判所から追加の書類提出を求められたり、候補者の方へ「照会書」という形で質問状が届いたりすることもあります。
ここで、私たち司法書士が実務で強く感じていることをお伝えさせてください。
家庭裁判所は、未成年者の利益が害されないかを厳格に審査します。場合によっては協議案の修正を求めたり、認められないことがあります。「親である私がしっかり面倒を見るから、財産は私が多めにもらっておきます」というお気持ちは、親心として痛いほどよくわかります。しかし、法律の手続き上、その「気持ち」は通用しないのです。裁判所はあくまで、「その子自身の法定相続分がきちんと確保されているか」を客観的な基準で判断します。この点を最初から理解して協議案を作成することが、手続きをスムーズに進める何よりの秘訣です。
STEP5:審判が下り、選任が確定する
審理の結果、候補者が特別代理人として適任であり、遺産分割協議書案の内容も問題ないと判断されると、家庭裁判所から「審判書」という決定通知書が送られてきます。この審判書が届けば、正式に特別代理人が選任されたことになります。
この審判書は、その後の不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約手続きなどで、特別代理人が権限を持っていることを証明する公的な書類となりますので、大切に保管してください。
申立てから選任が確定するまでの期間は、家庭裁判所の混み具合にもよりますが、おおよそ1ヶ月から2ヶ月が目安です。
特別代理人選任後の遺産分割協議と注意点
無事に特別代理人が選任されたら、いよいよ遺産分割協議を進めていきます。親権者は協議に参加しますが、未成年のお子さまの代理人として署名・押印するのは、親権者ではなく選任された特別代理人です。
家庭裁判所に提出した遺産分割協議書案の内容で正式な遺産分割協議書を作成し、相続人全員と特別代理人が署名・実印の押印をします。これで遺産分割協議は法的に成立し、特別代理人の任務はその時点で終了となります。
遺産分割協議書には法定相続分以上の取得を明記する
家庭裁判所の審理をスムーズに進めるための最も重要なポイントは、遺産分割協議書案を作成する段階で、未成年者が少なくとも法律で定められた「法定相続分」以上の財産を取得する内容にすることです。
例えば、相続人が母と子1人の場合、法定相続分はそれぞれ2分の1ずつです。この場合、お子さまが全遺産の2分の1以上の価値がある財産を取得するような案を作成する必要があります。これが、未成年者の利益を守るという特別代理人制度の趣旨に最も合致する方法であり、家庭裁判所も認めやすいのです。
通常、特別代理人が関与して成立した遺産分割協議は強い法的効力を有しますが、詐欺・強迫・重大な手続違反など特段の事情がある場合には争われる余地があります。
家庭裁判所という公的な機関の監督のもと、特別代理人が関与して成立した遺産分割協議は、非常に強い法的効力を持ちます。
そのため、後になって「やっぱりあの内容は不利だった」と未成年者本人が考えたとしても、成人した後にその遺産分割協議を覆す(無効にする)ことは、原則としてできません。それだけ、特別代理人を選任する手続きは重みのあるものだということです。だからこそ、最初の遺産分割協議書案の作成が非常に重要になるのです。

特別代理人が不要となるケースとは?
ここまで特別代理人の重要性についてお話ししてきましたが、未成年者の相続が関わるすべてのケースで選任が必要なわけではありません。ここでは、特別代理人が不要となる主なケースをご紹介します。
遺言書で遺産の分け方が指定されている場合
亡くなった方が遺言書を残しており、その遺言書に「長男に不動産を、妻に預貯金を」というように、財産の分け方が具体的に指定されている場合は、相続人間で遺産分割協議を行う必要がありません。協議がなければ利益相反も生じませんので、特別代理人の選任は不要です。
未成年者が相続放棄をするが、親は相続しない場合
例えば、親権者である母がすでに相続放棄をしていて相続人ではなく、その後に未成年の子が相続放棄をするような場合です。この場合、母と子の間に利益相反の関係はないため、母が法定代理人としてお子さまの相続放棄の手続きを進めることができます。
ただし、先ほども触れたように、親は相続するのに子だけが相続放棄をする場合は利益相反にあたる可能性が高いため、注意が必要です。
法定相続分どおりに相続する場合
遺産分割協議をせず、法律で定められた割合(法定相続分)のとおりに財産を分ける場合も、利益相反は生じません。例えば、不動産を法定相続分の割合で共有名義にする相続登記を行うだけであれば、特別代理人は不要です。
しかし、預貯金の解約手続きなどでは、金融機関から実務上、相続人全員の合意を示す遺産分割協議書を求められることがほとんどです。そのため、この方法が使える場面は限定的かもしれません。

未成年者の相続に関するよくある質問
ここでは、未成年者の相続手続きに関して、お客さまからよく寄せられる質問にお答えします。
Q. 未成年の子どもが複数いる場合、特別代理人はそれぞれ必要ですか?
はい、原則としてお子さま一人ひとりについて特別代理人を選任する必要があります。
例えば、相続人が母、未成年の長男、未成年の次男の場合、長男と次男の間でも利益が対立する関係になります。そのため、長男の特別代理人と次男の特別代理人、それぞれ別の候補者を探して選任申立てを行うのが原則です。同じ人が複数の子の代理人にはなれません。
Q. もうすぐ18歳になるのですが、成人するのを待つべきですか?
お子さまが成人年齢(現在は18歳)に達すれば、ご本人が遺産分割協議に参加できるため、特別代理人を選任する必要はなくなります。
もし、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに十分な時間があり、お子さまがご自身の意思で判断できる年齢に近いのなら、成人を待つというのも一つの有効な選択肢です。ただし、申告期限が迫っている場合や、他の相続人との兼ね合いですぐに手続きを進めたい場合は、待たずに特別代理人選任の手続きを進めるべきでしょう。
Q. 相続税の「未成年者控除」とは何ですか?
未成年者が財産を相続した場合、相続税の負担を軽くするための「未成年者控除」という制度があります。これは、その未成年者が18歳になるまでの年数1年につき10万円が、納めるべき相続税額から差し引かれるというものです。
例えば、15歳のお子さまが相続人になった場合、「(18歳-15歳)× 10万円 = 30万円」が控除されます。相続税がかかるかどうかご心配な方は、私に相続税はかかるの?のページも参考にしてください。ただし、具体的な税額の計算や申告については、税理士の専門分野となります。
まとめ:未成年者の相続手続きは司法書士へご相談ください
今回は、相続人に未成年者がいらっしゃる場合の手続きについて、特に「特別代理人」を中心に解説しました。
- 未成年者は遺産分割協議に直接参加できないため、代理人が必要。
- 親権者も相続人である場合、「利益相反」にあたるため代理人になれない。
- その場合は、家庭裁判所で「特別代理人」を選任する必要がある。
- 特別代理人選任の手続きには、遺産分割協議書案の作成など専門的な知識が求められる。
お子さまの権利を守るための大切な手続きですが、戸籍謄本をたくさん集めたり、裁判所に提出する書類を作成したりと、ご自身で進めるには時間も手間もかかり、不安に感じることも多いかと思います。
当事務所は、特別代理人候補者のご紹介や申立書作成の支援を行うことが可能です。ただし、特別代理人の選任は家庭裁判所の裁量であり、候補者が選任されるかは裁判所の判断によります。
何より大切にしているのは、お客さまのお話をじっくりと伺い、法律家っぽくない親しみやすさで、ご不安な気持ちに寄り添うことです。ご相談は無料(時間制限なし)です。まずはお気持ちをお聞かせいただくことから始めませんか。どうぞお気軽にご連絡ください。

遺産相続は、誰もが直面する可能性のある問題です。
「うちは財産が少ないから大丈夫」と思いがちですが、実は相続トラブルの7割以上は5,000万円以下の家庭で起きています。
「争族」になる前に、少しでも不安を感じたら、ぜひご相談ください。
名古屋高畑駅前司法書士事務所は、相談者様の気持ちに寄り添い、専門用語を使わず丁寧に、何度でもご説明することを心がけています。
相続や遺言は、ご家族の未来を想う大切な手続きです。 誰に、何を、どう引き継ぐか。その想いを形にするお手伝いをさせていただければ幸いです。
名古屋市中川区・港区を拠点に、愛知県全域の相続・遺言手続きをサポートする名古屋高畑駅前司法書士事務所へ、お気軽にご相談ください。
相談は初回だけでなく、何度でも無料です。
不動産の相続登記(相続による名義変更)が義務化されました
2024年(令和6年)4月より不動産の相続登記(相続による名義変更)が義務となりました。
今までは不動産の相続登記(相続による名義変更)が放置されることがしばしばあり、登記記録からは所有者がわからない所有者不明土地が増加し社会問題となりました。所有者不明土地は全国に410万ヘクタールあるといわれており九州の面積以上に膨れ上がっているのです。これを解決するため不動産の相続登記(相続による名義変更)が義務となったのです。
自身が相続したことを知った日より3年以内に不動産の相続による名義変更をしなければなりません。もし不動産の登記名義人が2024年(令和6年)4月より前に亡くなっている場合は、2024年(令和6年)4月より3年以内です。
もし正当な理由がないのに不動産の相続登記(相続による名義変更)を怠ると罰則があります。10万円以下の過料が科せられます。
そのためか最近は不動産の相続による名義変更のお問い合せ・依頼が多いです。しかし、中には何十年も相続による名義変更を放置し、相続が繰り返され相続人が数十人となっていたり、行方不明の方がおられたりなど残念ながら事実上名義変更ができない案件にも出くわしています。
このようなことにならないよう相続が開始したらすぐに不動産の相続登記(不動産の相続による名義変更)をすべきなのです。
では、もし長年不動産の相続による名義変更を放置していたなどの事情により名義変更に時間がかかり3年以内にできない場合はどうすればいいのでしょうか?
長年放置された不動産は相続人が膨れ上がり、相続人調査に時間を要し、相続人全員で遺産分割協議をおこなわなければならず名義変更をするのも膨大な時間を費やすことが多いはずです。あるいは相続人に連絡がつかず止まってしまうこともあり3年以内に名義変更をおこなうことが困難なこともありえます。
そこで「相続人申告登記」という制度も同時に新設されました。
「相続人申告登記」とは、法務局に所有権登記名義人が亡くなったこと及び自身が相続人であることを申告する簡易手続きで、相続申請義務を履行したものとみなされる制度です。 過料の対象からも外されます。自己だけが登記名義人の相続人の1人であることを証明できればよいのでそれほど時間は要しないはずです。
登記簿には、登記名義人の死亡と申出のあった相続人の住所・氏名が記載されますが所有権移転を示すものではありません。そこで遺産分割協議成立の日から3年以内に相続登記しなければなりません。
どうしても不動産の相続による名義変更が3年以内にできそうにない場合、この「相続人申告登記」をすることになります。ただ「相続人申告登記」は取り急ぎ義務の履行をしたことにし過料を科せられなくなるにすぎません。当該不動産を売却などする場合には相続による名義変更をしなければなりません。
以上のように、不動産の相続による名義変更を放置しておくと大変なことになります。自分は亡くなれば困りませんが、この問題は自分の子や孫へ代々引き継がれていきます。
ですから不動産の相続登記(不動産の相続による名義変更)は放置せずなるべくはやくするようにしましょう。
不安な方は専門家に相談してみてください。

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相続した土地を国が引き取る制度が開始されました(相続土地国庫帰属制度)
相続土地国庫帰属制度とは?わかりやすく解説
「活用できず、売ることもできない土地を相続してしまった…」これまで、このような土地の所有権を手放す有効な手段はほとんどありませんでした。利用価値のない土地は買い手がつかず、自治体も寄付を受け付けてくれないため、管理の負担や固定資産税を払い続けるしかないのが実情でした。結果として放置され、所有者が分からなくなる「所有者不明土地」が社会問題となっています。
こうした問題の多くが相続をきっかけに発生することから、国は相続登記の義務化と並行して、新たな選択肢を創設しました。それが2023年4月27日から始まった「相続土地国庫帰属制度」です。
この制度を一言で説明すると、「相続または遺贈によって取得した不要な土地を、一定の要件を満たした場合に、審査手数料と負担金を国に納めることで国に引き取ってもらう制度」です。
借金などマイナスの財産が多い場合に検討される相続放棄は、預貯金などのプラスの財産も含めてすべての相続権を放棄する手続きです。しかし、この国庫帰属制度を使えば、他の価値ある財産は手元に残しつつ、問題の土地だけを手放すことが可能になります。所有者不明土地問題の解決に向けた、画期的な選択肢と言えるでしょう。
制度のメリット・デメリットは?どんな人が使うべき?
相続土地国庫帰属制度は、不要な土地を抱える方にとって大きな救いとなり得ますが、誰にとっても最善の策というわけではありません。メリットとデメリットを正しく理解し、ご自身の状況に合っているか慎重に判断することが重要です。
メリット:管理の負担や将来のリスクから解放される

この制度を利用する最大のメリットは、土地を所有し続けることによる精神的・金銭的な負担から解放される点にあります。
- 継続的な支出がなくなる:毎年課税される固定資産税の支払いがなくなります。また、遠方の山林や原野であっても、定期的な草刈りや樹木の伐採といった管理コストが不要になります。
- 将来の不安を解消できる:ご自身が亡くなった後、子供や孫に「負動産」として負担を押し付けてしまう心配がなくなります。次の世代に問題を先送りせず、ご自身の代で解決できるという点は大きな安心材料となるでしょう。
- 必要な財産は維持できる:預貯金や自宅など、手元に残したい財産は相続しつつ、不要な土地だけを切り離して手放せる点は、相続放棄にはない大きな利点です。
デメリット:費用と厳しい要件がハードルに
一方で、この制度には無視できないデメリットも存在します。それは、決して「無償」ではないこと、そして「どんな土地でも引き取ってもらえるわけではない」という厳しい現実です。
まず、申請時には審査手数料、そして承認されれば10年分の土地管理費に相当する「負担金」を支払う必要があります。この負担金は最低でも20万円からと、決して安い金額ではありません。
さらに、国が引き取る土地には厳しい要件が定められています。例えば、建物が建っている土地や、隣地との境界がはっきりしない土地は、そのままでは申請できません。申請前に建物を自費で解体したり、費用をかけて境界を確定させたりする必要があり、追加で高額な費用が発生する可能性も十分に考えられます。
実務家の視点から申し上げると、この要件はかなり厳しいと感じます。「管理費を請求されている原野」や「境界がわからない山林」など、普通に利用できない土地こそ手放したいはずですが、まさにそういった土地が要件で弾かれてしまう可能性が高いのが現状です。過度な期待はせず、冷静に費用対効果を見極める必要があるでしょう。
【司法書士の見解】結局、どんな人が利用を検討すべきか
メリットとデメリットを踏まえた上で、この制度の利用を積極的に検討すべきなのは、以下のような状況にある方です。
「預貯金などプラスの財産があるため相続放棄はしたくないが、相続財産の中に、どうしても売却や活用の見込みが立たない土地が含まれている」
特に、買い手のつかない地方の山林や原野、管理が難しい農地などを相続してしまったものの、他の財産は手放したくないというケースでは、非常に有効な選択肢となります。将来にわたって支払い続ける固定資産税や管理費用、そして子孫への負担を考えれば、負担金を支払ってでも手放す価値は十分にあると言えるでしょう。
逆に、少しでも売却の可能性がある土地や、負担金の額が想定される売却損を大きく上回るような場合は、まずは不動産会社に相談して売却を試みるなど、他の方法を優先すべきです。個々の状況によって最適な解決策は異なりますので、慎重な判断が求められます。
相続土地国庫帰属制度の費用はいくらかかる?

この制度を利用するにあたり、多くの方が気にされるのが費用でしょう。国に土地を引き取ってもらうためには、大きく分けて2種類の費用と、状況によって発生する付随的な費用がかかります。
- 審査手数料:土地1筆あたり14,000円
申請時に、審査のための手数料として法務局に納付します。この手数料は、申請が承認されなかった場合でも返還されません。 - 負担金:10年分の標準的な管理費用(原則20万円~)
審査の結果、承認された場合に納付する費用です。土地の管理には国もコストがかかるため、その10年分を前払いするイメージです。負担金の額は土地の性質によって異なり、原則として20万円ですが、面積や種類によっては変動します。
| 土地の種類 | 負担金の算定方法 |
|---|---|
| 宅地・田・畑など | 面積にかかわらず原則20万円(一部地域では面積に応じて算定) |
| 森林 | 面積に応じて算定(例:3,000㎡の森林で約53万円) |
| その他(雑種地、原野など) | 面積にかかわらず原則20万円 |
さらに注意が必要なのは、申請の前提条件をクリアするために発生しうる「付随費用」です。国もタダで引き取ってくれるわけではなく、管理しやすい状態にしてから申請する必要があるのです。
- 境界確定費用:隣地との境界が不明確な場合、土地家屋調査士に依頼して境界を確定させる必要があります。費用はケースによりますが、40万円以上かかることも珍しくありません。
- 建物等の解体費用:土地の上に建物や工作物が残っている場合、申請前に自費で解体・撤去する必要があります。建物の規模によっては100~200万円程度の費用がかかることもあります。
- 土壌汚染等の調査費用:土壌汚染の可能性がある土地では、調査費用が必要になる場合があります。
このように、審査手数料と負担金だけでなく、土地の状態によっては高額な追加費用が発生する可能性があることを念頭に置いておく必要があります。なお、農地だからといって一律に対象外になるわけではありませんが、要件を満たすためのハードルは決して低くありません。
詳細な負担金の計算については、法務省のウェブサイトもご参照ください。
参照:相続土地国庫帰属制度の負担金|法務省
制度を利用するための2つの要件【申請者と土地】
相続土地国庫帰属制度を利用するには、「誰が申請できるか」という人的要件と、「どんな土地が対象か」という土地の要件の両方を満たす必要があります。ご自身と所有する土地が該当するか、セルフチェックしてみましょう。
【要件1】申請できる人|相続で土地を取得した人が対象
この制度を申請できるのは、以下のいずれかに該当する人です。
- 相続または遺贈(相続人に対するものに限る)によって土地の所有権を取得した人
- 共有の土地の場合、共有者の中に相続または遺贈で持分を取得した人がいて、共有者全員で共同して申請する人
ポイントは、あくまで「相続」または「遺贈」が原因で土地を取得した人に限られるという点です。売買や生前贈与などで取得した土地は対象外となります。
ただし、嬉しい点として、この制度は2023年4月27日に開始されましたが、それ以前に相続した土地であっても対象となります。過去の相続で取得し、長年塩漬けになっていた土地についても、この制度を利用できる可能性があるのです。
【要件2】引き取ってもらえない土地の具体的な条件
国が引き取る土地は、将来的に管理や処分がしやすい「きれいな土地」であることが前提です。そのため、管理に過大な費用や労力がかかる土地は、申請が却下されたり、審査で不承認となったりします。具体的には、以下のいずれかに一つでも該当する土地は引き取ってもらえません。
申請段階で却下される土地(却下事由)
- ① 建物がある土地
- ② 担保権(抵当権など)や使用収益権(賃借権など)が設定されている土地
- ③ 通路など、他人によって使用されることが予定されている土地
- ④ 特定有害物質により土壌汚染されている土地
- ⑤ 境界が明らかでない土地・所有権について争いがある土地
審査の結果、不承認となる土地(不承認事由)
- ⑥ 崖があり、管理に過大な費用・労力がかかる土地
- ⑦ 管理や処分を妨げる工作物、車両、樹木などが地上にある土地
- ⑧ 除去が必要な有体物が地下にある土地
- ⑨ 隣地所有者と争わなければ管理・処分ができない土地(公道に通じていない土地など)
- ⑩ その他、通常の管理・処分に過大な費用・労力がかかる土地
特にご相談が多いのが①「建物がある土地」と⑤「境界が明らかでない土地」です。空き家が残っている場合は、まず建物を解体して更地にしなければ申請できません。また、土地の境界が曖昧な場合は、土地家屋調査士に依頼して境界確定測量を行う必要があります。これらの対策には相応の費用と時間がかかるため、事前にしっかりと計画を立てることが不可欠です。
相続土地国庫帰属制度の手続きの流れ

実際に制度を利用する場合、どのような流れで進むのでしょうか。大まかなステップは以下の通りです。
- 法務局への事前相談(任意)
申請先の法務局は、その土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局の本局です。申請要件が複雑なため、まずは事前相談を利用することをお勧めします。相談は予約制ですが、土地が遠方にある場合でも、お近くの法務局の本局で相談が可能です。 - 申請書類の準備・提出
承認申請書や土地の図面、写真など、必要な書類を準備して法務局に提出します。相続登記の手続きが完了していなくても申請自体は可能ですが、状況によっては事前に相続登記を済ませておくと手続がスムーズになる場合があります。 - 法務局による審査(書面・実地調査)
提出された書類に基づき、法務局の担当者が要件を満たしているか審査します。必要に応じて、担当者が現地を訪れて土地の状況を確認する実地調査も行われます。標準処理期間(目安)は8か月とされており、土地の状況や調査の要否などにより前後します。 - 承認・負担金の納付
審査の結果、要件を満たしていると判断されると、法務局から承認の通知と負担金の納付通知が届きます。通知を受け取ってから30日以内に負担金を納付する必要があります。 - 国庫への帰属
負担金の納付が完了した時点で、土地の所有権は国に移転します。これで、あなたは土地の所有者としての義務と責任から完全に解放されます。
申請書の様式は法務省のウェブサイトで確認できます。
参照:相続土地国庫帰属の承認申請書(PDF)|法務省
制度が使えない場合は?司法書士に相談できること
「要件が厳しくて申請できない」「負担金が高額で断念せざるを得ない」といった場合でも、諦める必要はありません。相続土地国庫帰属制度以外にも、不要な土地を手放すための選択肢は存在します。
- 売却:たとえ安価であっても、隣地の所有者や近隣の事業者などに需要がないか、不動産会社を通じて探ってみる価値はあります。
- 相続放棄:相続開始から3ヶ月以内であれば、相続放棄のメリット・デメリットを考慮した上で、すべての財産を放棄するという選択肢があります。
- 寄付・譲渡:自治体では難しくても、隣地の所有者や、その土地を活用したいという個人・法人に無償で譲渡(寄付)できる可能性があります。
どの方法が最適かは、土地の状況、他の相続財産の内容、そしてご自身の意向によって大きく異なります。複雑な法律や手続きが絡むため、ご自身だけで判断するのは非常に困難です。
このような時こそ、私たち司法書士にご相談ください。名古屋高畑駅前司法書士事務所では、ご相談は無料で承っております。
ご相談いただければ、相続土地国庫帰属制度の利用可能性の診断から、売却や相続放棄といった他の選択肢との比較検討、そして最も有利な解決策のご提案まで、専門家の視点からトータルでサポートいたします。複雑な書類の作成支援や法務局との連絡・手続の代行も可能ですが、状況に応じて必要書類のご準備や内容確認など、ご協力をお願いする場合があります。
一人で悩まず、まずはお気軽にお問い合わせください。あなたの肩の荷を軽くするお手伝いをいたします。

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公正証書遺言に印鑑が押してない!
ときどきある質問です。
「公正証書遺言に印鑑が押してないけど有効なのですか?」
結論から先にいいますと、大丈夫です。
公正証書遺言に遺言者の朱肉での押印はなくても有効です。
「遺言に印鑑がないと無効」ということを知っている方は多いとおもいます。
確かにそのとおりです。
その知識があり、公正証書遺言をみると遺言者の「印鑑がない」とびっくりするのが普通の感覚ではないでしょうか。公正証書遺言には㊞と印刷されていますが、実際に赤の朱肉で押印されていません。ですが安心してください。皆さんがお持ちする公正証書遺言には印鑑の朱肉での押印はなくていいのです。印鑑は公証役場に保管されている原本に押してあるのです。私たちが持っているのは公正証書遺言の正本と謄本です。公正証書遺言の正本と謄本には遺言者の押印はありません。公正証書遺言の正本と謄本の㊞の印字は原本に印鑑が押してあるということなのです。
実際に遺言者が亡くなって相続手続きする際にはこの遺言者の押印のない公正証書遺言の正本か謄本を使用します。これで問題なく相続手続きできます。
なお、びっくりしてこの公正書遺言の㊞の印字箇所に印鑑を押してはいけません。押したくなる気持ちはよくわかります。しかし、ここに印鑑を押すと偽造とみなされ遺言書自体が無効となるおそれがあるのです。ですから公正証書遺言の正本と謄本の㊞の印字箇所に印鑑を押すことは絶対にしないでください。
公正証書遺言を作成した遺言者もこのことを知らないことがままあります。公正証書遺言を作成する際に公証役場がこのことを説明してくれないこともあるからです。不親切ですね。でも本当に説明してくれないこと結構あります。
実は、司法書士や弁護士などの法律家もなりたての頃は結構びっくりします。知り合いの新人弁護士から「公正証書遺言に印鑑がないけど大丈夫なの?」と電話がかかってきたこともありました。私も司法書士になりたてのころは知識として知っていましたが何か不安でした。
安心してください。公正証書遺言に遺言者の印鑑の朱肉での押印はなくていいのです。
ちなみに遺言者の氏名も直筆でなく印字ですがこちらも大丈夫です。公証役場に保管してある原本にだけ直筆の署名があるのです。
遺言のことについて不安がある方は専門家に相談してみてください。

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相談は初回だけでなく、何度でも無料です。
自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言はどちらの方がいいの?
令和2年7月10日より自筆証書遺言書保管制度がはじまりました。詳細は前回のコラム「 自筆証書遺言書保管制度が開始されました 」をご覧ください。
簡単にいいますと、自分で書いた自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)が預かってくれるというものです。今まで、自分で作成する自筆証書遺言は自分で保管しておくしかありませんでした。すると、紛失したり、自分の死後に相続人にみつけてもらえなかったり、財産をもらえない相続人が隠してしまったりするおそれがありました。それを防ぐために公証役場で作成・保管してもらえる公正証書遺言を選択することが多かったのです。
しかし、これからは自筆証書遺言も法務局(遺言書保管所)というお役所で保管してもらえることになりました。公正証書遺言ほど費用をかけたくないが、自分で遺言を作成して保管しておくのは大変だと遺言作成に躊躇していた方が、この制度により遺言を作成しやすくなったといえそうです。
自筆証書遺言を作成し自身で保管しておくよりは自筆証書遺言書保管制度の方が有益だというのは明らかです。自身で保管しておかなくて済むので紛失・偽造・隠匿のおそれがないということはもちろんです。さらに、自筆証書遺言書保管制度では通常自筆証書遺言に必要な遺言書の検認手続きが必要ありません。検認とは、遺言の内容を明確にして偽造・変造を防止するための手続きです。遺言者の死後、家庭裁判所に原則相続人全員が集合しなければならず手間と時間・費用がかかります。自筆証書遺言書保管制度では保管申請の際にすでに法務局(遺言書保管所)で遺言書の外形がチェックされており、法務局(遺言書保管所)で遺言書原本が保管されていることから偽造・隠匿のおそれがないため裁判所での検認手続きはおこなわれないのです。
では、公正証書遺言と比較すると本当のところどうなのかという疑問がわいてくるとおもいます。
今回は自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言とを比べたときのメリット・デメリットをあげ、どちらの方がいいのかについて述べさせていただきたいとおもいます。
自筆証書遺言書保管制度の公正証書遺言との比較でのメリットからです。
まずは、自筆証書遺言書保管制度は費用が抑えられることです。
遺言書保管申請の手数料は1通3,900円です。公正証書遺言なら遺言に記載する遺産額にもよりますが数万円はかかります(勿論どちらも専門家に作成サポートを依頼すれば別途報酬が発生します)。
次に、自筆証書遺言書保管制度では、遺言者が希望した場合、遺言者が死亡すると相続人・受遺者・遺言執行者のうち1人に遺言が保管されている旨が通知されることです。
公正証書遺言の場合、遺言者が死亡しても相続人等に対して公証役場から遺言がある旨の通知はされません。すると遺言者の死亡後に相続人らが遺言の存在に気付かず遺言はないものとして相続手続きされてしまうことがあります。
しかし、自筆証書遺言書保管制度では、遺言者が希望しておけば、相続人等に遺言者死亡の事実と遺言が保管させていることが通知されます。これは特筆すべき点です。遺言者は相続人に遺言の存在を知らせておかなくても自身の死後に遺言の存在に気付いてもらえます。この点は安心ですね。
ただし、気をつけなければならないのは、通知対象者の住所が変更された場合、遺言者が変更届をしないと通知が届かないことになります。遺言者がそこまで把握できるのか問題となりそうです。
なお、この「死亡時の通知」の運用は令和3年度以降頃からの予定とされています。
では次に、自筆証書遺言書保管制度のデメリットです。
まず、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預ける際には、遺言者自らが法務局(遺言書保管所)に出向かなければなりません。遺言者が高齢で病院や施設に入っており自ら法務局(遺言書保管所)に出向けない人も多いでしょう。しかし、代理や郵送による手続きは認められていません。また、法務局(遺言書保管所)の職員が、病院や施設に遺言書を取りに来てくれることもありません。
この点、公正証書遺言であれば、公証役場の公証人が、遺言者が入院している病院や施設まで来てくれます。
なお、公正証書遺言では遺言者が署名できなくても公証人が代筆してくれます。
次に、ここが一番重要な点といっていいでしょう。
自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けるとき、遺言の内容まではみてくれません。法務局(遺言書保管所)は法的に有効か無効かまでは判断してくれないのです。なぜなら自筆証書遺言書保管制度とは単に遺言書を預かってくれる制度にすぎないからです。
したがって、不備のある遺言が量産されてしまうことが予想されます。
なお、法務局では遺言の作成に関する相談には一切応じてもらえません。
しかし、公正証書遺言であれば内容までみてくれるので無効な遺言になってしまう可能性は低いでしょう。
遺言書保管申請のときに本人確認はおこなわれますが、認知症の程度など遺言能力についての確認はおこなわれません。認知症が進行し、遺言能力がない状態で作成された遺言は無効です。相続開始後に、ある相続人から高度の認知症の状況下で書かれた遺言なので無効だと争われるかもしれません。
この点、公正証書遺言であれば作成時に遺言能力についても確認されるので無効な遺言になってしまう可能性は低いでしょう。
場合によって厄介なのは遺言者が亡くなった後、必ず相続人全員の戸籍・住民票が必要になることです。これは遺言者が亡くなった後、相続手続きをするには必ず相続人が申請により法務局(遺言書保管所)から「遺言情報証明書」を取得しなければならないのですが、その際に相続人全員の戸籍・住民票が必要になるのです。この時、もし相続人の中に海外在中の者や行方不明者がいたら厄介なことになります。
このような場合、もし公正証書遺言であれば亡くなられた方と遺産を受取る方の戸籍・住民票だけで足りるのでスムーズにいきます。
もう一つ場合によって厄介なのは、自筆証書遺言書保管制度を利用すると、相続手続きの際に必ず相続人全員に遺言があることが通知されるということです。遺言者が亡くなると必ず自動的に相続人全員に通知がされるわけではありません。遺言者が亡くなると相続手続きのために相続人から法務局に「遺言情報証明書」の発行の申請をすることになります。この「遺言情報証明書」の発行の申請がされると、相続人全員に遺言がある旨が通知されるのです。これは、他の相続人にも遺留分請求の機会を与えるための保護だとおもいます。しかし、遺言者としては秘密裏に遺産を分け与えたいとおもうこともあるでしょう。
このような場合、公正証書遺言であれば遺言の存在を他の相続人に通知されることはありません。したがって、遺言内容による相続手続きがスムーズにいく可能性が高くなります。
では上記を踏まえて、自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言はどちらの方がいいのでしょうか?
場合にもよりますが、個人的には作成時に遺言内容まで確認してくれて遺言内容・遺言能力が担保される公正証書遺言の方がいいとおもいます。
たしかに公正証書遺言の方が費用はかかります。
しかし、遺言が無効になってしまったら元も子もありません。遺言が無効とわかるのは遺言者の死後つまり相続開始後です。遺言者が亡くなってしまえば遺言の訂正はできません。もはや取り返しがつかないのです。困るのは残された相続人です。
公正証書遺言の場合、遺言者死亡後の遺言の存在に関する「死亡時の通知」がありませんが、それは遺言者が相続人らに遺言の存在を伝えておいたりしておけば特に不利益にはならないとおもいます。
やはり法律家としては安心感抜群の公正証書遺言をお勧めしたいところです。
以上の点を踏まえて、遺言書を作成するときは自筆証書遺言書保管制度なのか公正証書遺言なのかよく検討して下さい。
遺言書作成について不安な方は専門家に相談してみてください。

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自筆証書遺言書保管制度が開始されました
令和2年7月10日より自筆証書遺言書保管制度が開始されました。
今まで、自筆で書いた自筆証書遺言は自身で保管しておくしかありませんでした。すると遺言者の死後に、不利益な相続人が遺言書を破棄したり、隠したり、偽造することがあります。また、遺言書を紛失したり、相続人に遺言書をみつけてもらえないこともあります。これらのリスクが遺言書を書くことの妨げになっていると考えられていました。そこで、遺言のさらなる普及のために自筆証書遺言書保管制度ができたのです。
自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)が保管してくれるという制度です。これにより、遺言書の紛失や偽造などによる紛争のおそれを防止できます。
おおまかな手続きの流れは、
① 自筆証書遺言を作成する
↓
② 自筆証書遺言を本人自身が法務局に持込む(代理・郵送は不可)
↓
③ 法務局が自筆証書遺言を保管する
↓
④ 遺言者が亡くなると相続人・受遺者・遺言執行者のうち1人に、遺言者の死亡及び遺言が保管されている旨の通知がされる(遺言者が希望する場合のみ。ただし運用は令和3年度以降頃からの予定)
↓
⑤ 遺言者が亡くなったら相続人・受遺者等が「遺言書情報証明書」を法務局(遺言書保管所)より取得する
↓
⑥ 相続人・受遺者等が「遺言書情報証明書」を使い相続手続き(不動産の名義変更・預貯金解約など)をする
保管できる法務局は、「遺言者の住所地」「遺言者の本籍地」「遺言者の所有する不動産の所在地」のいずれかを管轄する遺言書保管所です。
以下、手続きの流れの詳細です。
遺言書保管の申請には必ず事前の予約が必要です。
遺言書保管申請は、遺言者自らが法務局(遺言書保管所)に出向かなければなりません。郵送や代理人による申請は認められていません。
公正証書遺言の場合、公証人が病院や施設等に出張してくれますが、自筆証書遺言書保管制度は法務局の職員は出張してくれません。この点は注意してください。
遺言書保管申請に必要なものは、申請書・遺言書(作成様式が定められています、ホチキス止めと封筒は不要)・本籍の記載のある住民票の写し(作成後3か月以内)・本人確認書類・手数料(1通3,900円)です。
法務局(遺言書保管所)での申請時に遺言者の本人確認がおこなわれます。
ここが重要なところですが、遺言書保管申請の際、遺言の内容までは審査してくれません。内容的に無効な遺言でも法務局(遺言書保管所)は指摘してくれません。それは単に遺言を預かる制度だからです。法務局(遺言書保管所)という公共の機関が保管してくれても遺言が有効であることのお墨付きをもらえるわけではないのです。
ここも遺言内容を確認してくれる公正証書遺言とは異なる点です。
ちなみに、法務局では遺言の作成に関する相談には一切応じてもらえません。このことは法務省のサイトにも掲載されています。
なお、遺言書保管申請の際、遺言書は返却してくれないのでコピー等をとっておきましょう。
遺言者はいつでも保管された遺言を閲覧することができます。
しかし、相続人や受遺者は遺言者が生存している間は閲覧することができません。遺言者は遺言内容を他者に秘密にしておきたいこともあるので当然ですね。
一度預けた遺言を撤回して返してもらうことは可能です。
以下は、遺言者が亡くなった後の詳細です。
遺言者が希望した場合、遺言者が亡くなると、相続人・受遺者・遺言執行者のうち任意に選んでおいた1人に遺言者の死亡と遺言が保管されている旨が通知されます。ここが公正証書遺言と異なる特筆すべき点です。公正証書遺言が作成されていても、相続人らがそのことを知らず遺言はないものとして相続手続されてしまうことがしばしばあります。しかし、この自筆証書遺言書保管制度では遺言者が亡くなると死亡の事実と遺言の存在が相続人等に通知されます。これは今までにない画期的な制度だといえます。専門家の予想をこえる内容で、遺言普及について法務省の本気度が伝わってきます。
ただし、この「死亡時の通知」の運用は令和3年度以降頃からの予定とされています。
遺言者が亡くなると、相続人・受遺者・遺言執行者は、「遺言保管事実証明書」の請求を遺言書保管所に対してすることができます。
もし、遺言書が保管されていることがわかれば、「遺言書情報証明書」を請求します。
「遺言書情報証明書」申請の添付書類として、被相続人の出生から死亡までの戸籍・相続人全員の戸籍謄本・相続人全員の住民票の写し(作成後3か月以内)・手数料1通1,400円が必要です。
この「遺言書情報証明書」の請求がされると、請求者以外の相続人等へ遺言書を保管している旨が通知されます。
したがって、遺言がある旨が相続人全員に知られることになります。この点が公正証書遺言とは異なります。
この「遺言書情報証明書」を使用して、相続による不動産の名義変更や預貯金の解約などの相続手続きをします。自筆証書遺言の原本は法務局に保管されたままですので使用しません。
なお、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、遺言書の家庭裁判所での検認手続きは不要です。検認とは、遺言の内容を明確にして偽造・変造を防止するための手続きです。
通常、自筆証書遺言は、発見されると開封する前に家庭裁判所で検認手続きをしなければなりません。しかし、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、作成時に遺言書を法務局(遺言書保管所)が確認しているから検認が不要なのです。
自筆証書遺言の検認には原則相続人全員が家庭裁判所に集合しなければなりません。そして、この検認には通常1~2か月を要します。自筆証書遺言書保管制度を利用すればこの検認が不要であるといことは相続人等にとってはかなりの負担減です。
以上が、自筆証書遺言書保管制度の簡単な内容です。
次回のコラムでは、この自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言を比較してどちらがいいのか比較してみたいとおもいます。
遺言書の作成につき不安な方は専門家に相談してみてください。

遺産相続は、誰もが直面する可能性のある問題です。
「うちは財産が少ないから大丈夫」と思いがちですが、実は相続トラブルの7割以上は5,000万円以下の家庭で起きています。
「争族」になる前に、少しでも不安を感じたら、ぜひご相談ください。
名古屋高畑駅前司法書士事務所は、相談者様の気持ちに寄り添い、専門用語を使わず丁寧に、何度でもご説明することを心がけています。
相続や遺言は、ご家族の未来を想う大切な手続きです。 誰に、何を、どう引き継ぐか。その想いを形にするお手伝いをさせていただければ幸いです。
名古屋市中川区・港区を拠点に、愛知県全域の相続・遺言手続きをサポートする名古屋高畑駅前司法書士事務所へ、お気軽にご相談ください。
相談は初回だけでなく、何度でも無料です。
共有名義の農地(田・畑)を単有名義にしたい
共有名義の農地、なぜ「単独名義」にすべきなのか?
ご親族と共有名義になっている農地(田んぼや畑)について、「管理が大変だから、誰か一人の名義にまとめたい」と考えたことはありませんか?
親から相続した土地が、いつの間にか兄弟姉妹や甥・姪との共有名義になっているケースは少なくありません。現状は問題なくても、そのまま何年、何十年と放置してしまうと、大変な事態を招く可能性があります。
例えば、共有者の一人が亡くなるたびに相続が発生し、所有者がネズミ算式に増えていくのです。気づいたときには、顔も知らない遠い親戚を含む何十人もの共有状態になっていることも…。そうなると、農地を売却したくても、活用したくても、共有者全員の同意を得ることは事実上不可能になり、完全に「塩漬け」の土地になってしまいます。
また、毎年かかる固定資産税の支払いを誰が代表して行うのか、という問題も揉め事の火種になりがちです。
「うちも、そろそろ何とかしないと…」
そんな漠然とした不安が、現実のトラブルになる前に、対策を打つことが重要です。この記事では、複雑な共有名義の農地をスッキリと単独名義にするための、具体的で現実的な方法を、専門家の視点から分かりやすく解説していきます。
農地の名義変更を阻む「農地法」の大きな壁とは
「それなら、他の共有者から土地の持分を買い取ったり、譲ってもらったりすればいいのでは?」と考えるかもしれません。しかし、そこに立ちはだかるのが「農地法」という大きな壁です。
農地は、私たちの食料を生産する大切な基盤です。そのため、宅地などの一般的な不動産のように自由に売買や贈与ができないよう、農地法によって厳しい規制がかけられています。この規制の厳しさは、農地が「市街化区域」にあるか、「市街化調整区域」にあるかで大きく異なります。

原則、自由に売買・贈与ができない「市街化調整区域」の農地
もしあなたの農地が「市街化調整区域」にある場合、名義変更は非常に難しくなります。市街化調整区域とは、市街化を抑え、農地や自然環境を守ることを目的としたエリアです。
この区域で農地の所有権を移転(売買や贈与)するには、農業委員会の「許可」が必要不可欠です。しかし、この許可は「農業を続ける意欲と能力がある買い手(譲受人)であること」などが厳しく問われるため、許可を得ることは非常に困難なのが実情です。単に共有関係を解消したいという理由だけでは、許可が下りることはまずないでしょう。
比較的、手続きが進めやすい「市街化区域」の農地
一方、農地が「市街化区域」にある場合は、話が少し異なります。市街化区域は、すでに市街地を形成している、あるいは今後優先的に市街化を図るべきエリアです。
ただし、農地を農地のまま売買・贈与などで名義変更(所有権移転)する場合は、市街化区域であっても農地法第3条の許可が必要となるのが一般的です。一方で、農地転用(農地を宅地などにすること)を伴う場合は、市街化区域では許可ではなく「届出」という手続きで済みます。届出は許可とは違い、要件を満たしていれば基本的に受理されるため、比較的スムーズに名義変更を進めることが可能です。
農地法の許可が不要となる場合がある!「持分放棄」で単独名義化する方法
「市街化調整区域にあるから、もう打つ手なしか…」と諦めるのはまだ早いです。農地法の厳しい許可を得ずに、共有名義の農地を単独名義にする、たった一つの現実的な方法があります。
その方法とは、「持分放棄(もちぶんほうき)」です。
持分放棄とは、共有者の一人が自らの権利(持分)を手放すことです。そして、放棄された持分は、法律(民法第255条)の規定により、他の共有者のものとなります。
なぜ、売買や贈与ではあれほど厳しかった農地法の許可が、持分放棄では不要なのでしょうか?
その理由は、持分放棄が「単独行為」であるためです。売買や贈与は「売りたい人」と「買いたい人」、「あげたい人」と「もらいたい人」という双方の合意があって初めて成立します。農地法は、この「もらいたい(買いたい)」という意思が、農地を守る観点から適切かどうかを審査するのです。
しかし、持分放棄は、放棄する人が一方的に「自分の権利を放棄します」と意思表示するだけで成立します。もらう側の承諾は必要ありません。当事者の合意が介在しないため、農地法の許可の対象外となるのです。これは、相続で農地を取得する際に許可が不要なのと同じ理屈です。
要注意!持分放棄で発生する「贈与税」のリスクと対策
「持分放棄」は非常に有効な手段ですが、一つだけ大きな注意点があります。それは「贈与税」です。手放す側には関係ありませんが、放棄された持分をもらう側(残りの共有者)に、思わぬ税金がかかる可能性があるのです。
なぜ税金がかかる?「みなし贈与」の仕組み
「ただ権利を放棄しただけなのに、なぜ贈与税がかかるの?」と不思議に思われるかもしれません。
税法上、持分放棄によって他の共有者が経済的な利益を得た場合、それは「実質的にタダで財産をもらったのと同じ」と見なされます。これを「みなし贈与」と呼び、通常の贈与と同じように贈与税の課税対象となるのです。これは、持分放棄を隠れ蓑にした贈与税逃れを防ぐためのルールです。
【具体例】いくら払う?贈与税の計算シミュレーション
では、実際にどれくらいの税金がかかるのでしょうか。具体的な例で見てみましょう。

ケース1:贈与税がかからない場合
- 農地の全体の評価額:300万円
- 共有者:Aさん、Bさん、Cさんの3名(持分は各1/3)
- Cさんが持分放棄をする
この場合、Cさんが放棄する持分の評価額は「300万円 × 1/3 = 100万円」です。この100万円分の価値が、残るAさんとBさんに移転します(Aさん、Bさんがそれぞれ50万円ずつ利益を得る形です)。
贈与税には年間110万円の基礎控除があります。Aさん、Bさんそれぞれが受け取る利益(50万円)は110万円の範囲内なので、このケースでは贈与税はかかりません。
ケース2:贈与税がかかる場合
- 農地の全体の評価額:900万円
- 共有者:Aさん、Bさんの2名(持分は各1/2)
- Bさんが持分放棄をする
この場合、Bさんが放棄する持分の評価額は「900万円 × 1/2 = 450万円」です。この450万円分の価値が、すべてAさんに移転します。
Aさんが受け取る利益(450万円)から基礎控除(110万円)を引いた340万円が課税対象となります。贈与税の税率は累進課税ですが、この場合の税率は20%で、控除額が25万円なので、
(450万円 – 110万円)× 20% – 25万円 = 43万円
となり、Aさんは約43万円の贈与税を納める必要があります。
対策:贈与税がかからないケースとは?
シミュレーションからも分かる通り、贈与税を回避するための最も重要なポイントは、「放棄によって受け取る持分の評価額を、年間の基礎控除110万円以下に収めること」です。
ただ、持分放棄を検討している農地の場合、固定資産税評価額などを基に計算すると、持分評価額が110万円を超えるケースはほぼないのではないでしょうか。事前に固定資産税の納税通知書などで評価額を確認し(無税であれば届いていません)、ご自身のケースで贈与税がかかりそうか、おおよその見当をつけておくことが大切です。また、相続税の基礎知識を理解しておくことも、将来的な税金対策に役立ちます。
参照:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
司法書士が解説!持分放棄の手続きを円滑に進める3つの秘訣
持分放棄は法的に有効な手段ですが、手続きをスムーズに進め、親族間のトラブルを避けるためには、いくつか押さえておくべき秘訣があります。ここでは、数多くのご相談を受けてきた司法書士の視点から、3つの重要なポイントをお伝えします。
秘訣1:他の共有者への「事前相談」と「合意形成」
法律上、持分放棄は「単独行為」であり、他の共有者の同意は不要です。しかし、だからといって、いきなり「持分を放棄しました」と事後報告するのは絶対にやめましょう。親族間に深刻な亀裂を生む原因になりかねません。
大切なのは、手続きを始める前の丁寧な「根回し」です。
- なぜ単独名義にしたいのか、その理由(管理の負担、将来の相続への懸念など)を誠実に伝える。
- 持分をもらう側には、贈与税や不動産取得税の負担が生じる可能性があることを正直に話す。
- 固定資産税の負担がどう変わるのかも説明し、相手の理解と納得を得る。
登記手続きを進める上では、結局のところ他の共有者の協力(書類への署名押印や住民票の提供など)が必要になります。円満な合意形成こそが、成功への一番の近道なのです。
秘訣2:持分放棄による名義変更(登記)手続きの流れ
関係者の合意ができたら、法務局で不動産の名義変更(所有権移転登記)を行います。手続きの全体像を把握しておきましょう。
- 持分放棄の意思表示:放棄する人が、他の共有者に対して「持分を放棄する」という意思を明確に伝えます。(口頭でも有効ですが、後のトラブル防止のため書面が望ましいです)
- 登記必要書類の準備:関係者それぞれが必要な書類を集めます。
【放棄する人】印鑑証明書、登記識別情報(または登記済権利証)、固定資産評価証明書、実印
【持分をもらう人】住民票、認印 - 登記申請書の作成:「持分放棄」を原因とする持分移転登記申請書を作成します。
- 法務局への登記申請:不動産の所在地を管轄する法務局に、書類一式を提出します。登録免許税(固定資産税評価額の2%)の納付も必要です。
- 登記完了:申請から2週間ほどで登記が完了し、新しい登記識別情報通知(旧権利証)が発行されます。
- 農業委員会への届出(該当する場合):相続等や共有者の持分放棄などにより、農地法第3条の許可を受けずに農地の権利を取得した場合は、農地法第3条の3に基づく届出が必要となることがあります。届出期限は「権利を取得した日から10か月以内」と案内されるのが一般的です。
秘訣3:手続きは司法書士に依頼するという選択肢もある
ご覧の通り、持分放棄の手続きには専門的な書類作成や法務局とのやり取りが伴います。特に、親族間のデリケートな調整が必要なケースでは、専門家である司法書士に依頼することをおすすめします。
司法書士にご依頼いただくことで、以下のようなメリットがあります。
- 複雑な登記書類をミスなく正確に作成できる。
- 他の共有者に対し、専門家の立場から中立的に手続きを説明し、理解を得やすくなる。
- 法務局との煩雑なやり取りをすべて代行してもらえる。
- 贈与税のリスクを事前にシミュレーションし、必要に応じて提携税理士と連携して対応できる。
ご自身で進める手間や時間を考えれば、専門家に任せる安心感は大きな価値となるはずです。当事務所では、持分放棄の手続きについて無料で相談することができますので、お気軽にご活用ください。
持分放棄以外の選択肢は?他の方法との比較
ここまで持分放棄を中心に解説してきましたが、他の方法はないのでしょうか。主な選択肢と比較してみましょう。
| 方法 | メリット | デメリット・注意点 | 農地法許可(市街化調整区域) |
|---|---|---|---|
| 持分放棄 | 農地法の許可が不要 | もらう側に贈与税・不動産取得税がかかる可能性がある | 不要 |
| 売買 | 手放す側は対価を得られる | 親族間でも適正価格での取引が必要。譲渡所得税がかかる場合がある | 必要(許可は困難) |
| 贈与 | 当事者の合意で柔軟にできる | もらう側に贈与税・不動産取得税がかかる | 必要(許可は困難) |
| 共有物分割 | 現物で土地を分ける、または代金を支払って解消する方法 | 農地を分筆する必要があり、手続きが複雑。農地法の許可が必要な場合がある | 原則必要 |
このように比較すると、市街化調整区域にある農地の共有関係を解消する方法としては、やはり「持分放棄」が最も現実的で有効な手段であることがお分かりいただけるかと思います。なお、どうしても不要な土地を手放したい場合は、相続した土地を国が引き取る制度なども選択肢になる場合があります。
共有名義の農地に関するよくあるご質問(Q&A)
Q. 共有者の一人と連絡が取れない、行方不明の場合はどうすればいいですか?
A. 持分放棄の手続きは、行方不明の共有者がいると進めることができません。この場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てるなど、法的な手続きが必要になります。非常に複雑な手続きとなるため、まずは専門家にご相談ください。
Q. 持分放棄の手続きに費用はどれくらいかかりますか?
A. ご自身で手続きを行う場合、登録免許税(固定資産税評価額の2%)と、印鑑証明書などの取得実費がかかります。司法書士に依頼する場合は、これに加えて司法書士報酬が必要となります。報酬は事案によって異なりますので、まずはお見積りをご依頼ください。
Q. 単独名義になった後の農地はどうすればいいですか?
A. ご自身で耕作を続けるのが基本ですが、もし農業を続けるのが難しい場合は、地域の農業委員会に相談し、農地中間管理機構(農地バンク)に貸し出すなどの活用方法を検討することができます。
共有名義の農地問題は、時間が経てば経つほど複雑化し、解決が困難になります。一人で悩まず、まずは専門家の視点からのアドバイスを受けてみませんか。当事務所では、ご相談を承っています。何から手をつければ良いか分からない、という段階でも全く問題ありません。解決への第一歩を、私たちと一緒にはじめましょう。まずは無料相談をご利用ください。

遺産相続は、誰もが直面する可能性のある問題です。
「うちは財産が少ないから大丈夫」と思いがちですが、実は相続トラブルの7割以上は5,000万円以下の家庭で起きています。
「争族」になる前に、少しでも不安を感じたら、ぜひご相談ください。
名古屋高畑駅前司法書士事務所は、相談者様の気持ちに寄り添い、専門用語を使わず丁寧に、何度でもご説明することを心がけています。
相続や遺言は、ご家族の未来を想う大切な手続きです。 誰に、何を、どう引き継ぐか。その想いを形にするお手伝いをさせていただければ幸いです。
名古屋市中川区・港区を拠点に、愛知県全域の相続・遺言手続きをサポートする名古屋高畑駅前司法書士事務所へ、お気軽にご相談ください。
相談は初回だけでなく、何度でも無料です。
親が亡くなる前に相続放棄はできるのか? ~その2~ 遺留分の放棄
前回のコラム「親が亡くなる前に相続放棄はできるのか?」の続きです。
前回のコラム「親が亡くなる前に相続放棄はできるのか?」では親の生前に相続放棄はできない旨を述べさせていただきました。
相続放棄は、親が亡くなった後でないとできないのです。
では、親の生前に法的に一切遺産を引継がなくする方法はないのでしょうか?
実は、近い効果が得られる方法があります。
「遺言」と「遺留分の放棄」という制度を使うのです。
まず、親が財産を引継がせたい子に相続させる旨(引き継がせたくない子に相続させない旨)の遺言を作成します。
これだけですと、子には遺留分という最低限保障されている相続分があるので、親が亡くなった後に子が遺留分の請求をした場合、その子に遺産の一部が渡ってしまいます。
それを防ぐために、「遺留分の放棄」という制度を使います。
遺留分の放棄とは、読んで字のごとく遺留分を放棄することです。相続放棄と異なり、遺留分は相続開始前に放棄をすることができます。
なぜ生前の相続放棄が認められていなのに遺留分の放棄が認められているかといいますと、相続発生後のトラブルを回避するためです。よくある例は、長男に家業を継がせたい場合、長男に相続させる遺言を作成したうえで次男や長女に遺留分の放棄をさせるのです。
遺留分の放棄は、遺留分という重要な権利を失うことになるので生前にするためには裁判所の許可が必要となります。
この裁判所の許可を得るための要件は以下の3つです。
① 自由な意思によること
② 必要性や合理性が認めらること
③ 充分な代償がおこなわれていること
①の「自由な意思によること」とは、親などに強要されていないかということです。
②の「必要性や合理性が認めらること」とは、なんとなくや親の金などあてにしないなどの感情論ではダメで「会社を引継がせる」などの理由が必要です。
③の「充分な代償がおこなわれていること」とは、遺留分相当額の生前贈与などがされていることが必要ということです。遺留分という重要な権利を放棄させるのですからその代償が必要ということです。したがって、次男は腹がたつから生前に代償は払いたくないが遺留分の放棄をさせたいというのは通らないということです。また、遺留分放棄させるときに代償に払う財産がないとできません。結婚を認めるなどの財産的価値のないものはダメです。
この③の要件が遺留分の放棄を妨げる最大の要因です。
実際に遺留分放棄はあまり使われていません。
注意しなければならないのは、遺留分の放棄をしたとしても、相続放棄ではないので相続権は失わないということです。つまり、遺留分の放棄をさせたとしても遺言を作成しておかないと、亡くなった後に相続の権利は主張できてしまいます。遺言で次男・長女の相続権を奪ったうえで遺留分の放棄をさせないと意味がなくなってしまうのです。
また、債務(借金)については遺留分の放棄をしかつ遺言により自己の取り分がなかったとしても法定相続分通りに相続されることになります。
債務(借金)については相続開始後に相続放棄するしかありません。
まとめ
・親の生前に相続放棄はできないが、遺留分の放棄はできる
・遺留分の放棄はあくまで遺留分だけを失わせるもので相続権は失わない。相続権も無くしたいなら遺言を作成すべき
・親の生前に遺留分の放棄をするには裁判所の許可が必要だが、許可要件として充分な代償が必要(生前贈与など)
・遺言があり遺留分の放棄をしても、債務(借金)は相続してしまう。相続開始後に相続放棄するしかない
不安な方は専門家に相談してみてください。

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親が亡くなる前に相続放棄はできるのか?
「親が亡くなる前に相続放棄したい」と相談されることが結構あります。
相続放棄とは、亡くなった者のプラスの財産とマイナス財産を含め一切の相続の権利を放棄することです。裁判所に対しその旨申述します。
親が亡くなる前に相続放棄はできるのでしょうか?
結論からいいますと、できません。
相続放棄は、被相続人が亡くなってからでないとできないのです。
相続開始後に相続放棄ができるのに、なぜ生前に相続放棄をすることはできないのでしょうか?
「相続権というのは相続が開始しないと発生しない、すなわち生前は相続権がないのでないものを放棄できない」と説明されることが多いのですが、なんだか屁理屈のようにかんじますよね。
相続権という重要な権利を他の相続人や被相続人などから放棄を強制されることを防ぐため、という理由がしっくりくるでしょうか。
実際に、親が亡くなる前に子が「相続放棄する旨を書いた書面に署名して印鑑を押す」というような念書のようなものを作成することがおこなわれています。
しかし、そのような書面に法的な効力は一切ありません。そのような書面を作成していたとしても相続する権利は失わないので、相続開始後に相続分の請求をすることができます。つまり「やっぱり遺産が欲しいから下さい」といえばもらえるのです。裁判になったとしてもそのような書面に法的な効力はないので相続分はもらえます。
まあ、このような書面を作成しておけば相続権の主張をすることにためらいを感じ心理的な効果はあるかもしれませんが。
では、親が亡くなる前に法的に一切遺産を引継がなくする方法はないのか?
実は、近い効果を得られる方法があります。
その方法は長くなるので次回のコラムでおはなしさせていただきます。
まとめ
・親の生前に相続放棄はできない
相続放棄について不安な方は専門家に相談してみてください。

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遺産分割協議が終わったあとに遺言書が見つかったらどうなるのか?
遺産について相続人全員で遺産分割協議をおこない遺産分けが終了しました。
しかし、その後に遺言書がみつかることがあります。
この場合、すでに終えた遺産分割協議はどうなるのでしょうか?
まず前提知識として、遺言は遺産分割協議に原則優先します。遺言があれば原則そのとおりに遺産分けをしなければなりません。亡くなった遺言者の意思を第一に尊重するためです。
しかし、これには例外があります。
遺産分割協議終了後に遺言がみつかった場合、遺言の内容によりどうなるのか結論が異なります。
まず、遺言の内容が、遺産を相続人ではなく第三者(甥・姪や愛人など)に承継させる内容だった場合についてです。
この場合、すでにおこなった遺産分割協議は無効となります。遺言の内容通りに手続きし直さなければなりません。遺産を承継する第三者の利益を害することはできないからです。遺言者の意思を尊重するというわけです。もちろん、その第三者が放棄をすれば別ですが。
次に、遺言の内容が、遺産を相続人だけに承継させる内容だった場合についてです。
この場合、相続人全員が遺言の内容ではなく遺産分割協議の内容で了承するのであれば、すでにおこなった遺産分割協議は有効です。すでにした相続手続きをやり直す必要はありません。
しかし、相続人の中に遺言があるのなら遺言の内容に従うべきと考える者が一人でもいるのなら遺産分割協議は無効です。遺言の内容通りに相続手続きをし直さなければなりません。
ただ、遺言の内容に子供の認知などが含まれていた場合、すでにおこなわれた遺産分割協議は無効です。遺産を取得する認知された子の権利が害されるからです。
また、あとから発見された遺言書に「遺言執行者」が定められている場合には、この遺言執行者の判断に委ねられます。遺言執行者が遺言通りにすべきと考えればそれに従うことになります。
なお、相続人が遺言書を隠していた場合などには、その相続人は相続欠格となり相続権を失います。もしその相続欠格者に子がいればその子が代襲相続人となります。この場合、相続人自体がかわってきますので以前の遺産分割協議は相続人でない者が協議に参加していたことになり無効となります。代襲相続人を含め再度遺産分割協議が必要となります。
遺産分割協議と遺言について不安な方は専門家に相談してみてください。

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相続や遺言は、ご家族の未来を想う大切な手続きです。 誰に、何を、どう引き継ぐか。その想いを形にするお手伝いをさせていただければ幸いです。
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