Archive for the ‘コラム’ Category

遺言があったら必ず従わなければならないのか?

2020-03-04

遺言があったら必ずそれに従って遺産分けしなければならないのでしょうか?

 

遺言があれば遺言者の意思尊重のため遺言通りに遺産分けしなければならないのが原則です。しかし例外があります。
以前コラムにもあげた兄弟姉妹以外の相続人には最低限保障されている相続分たる遺留分があるので、遺留分を害する遺言はもし相続人が遺留分を主張すればその分については遺言に従わなくていいといえます。
でも今回は遺留分以外の別のおはなしです。
実は、相続人全員で遺産分割協議をおこない相続人全員の合意があれば遺言と異なる内容の遺産分けも可能です。相続人のうちの1人でも反対すれば遺言の内容と異なる遺産分けはできません。

 

遺言は遺言者の意思を第一に尊重しなければなりません。
しかし、遺言の目的は相続争いを防止することにあります。相続人全員が遺言書と異なる遺産分けを望むのであれば相続争いにはなりません。
また、遺言の内容通りに遺産分けしても、その後すぐ相続人間で譲渡してしまえば遺言の内容通りに相続手続きすることは無意味となります。
さらに、遺言を作成したときと事情がかわっている場合もあります。
そこで、相続人全員の合意があれば遺言の内容と異なる割合・方法で遺産分けすることが認められているのです。

 

ただし、遺言の内容が「相続人ではない第三者(甥・姪や愛人など)に遺贈する場合」や「子供を認知する場合」などには遺産を取得するその第三者の利益を害することになるので遺言に従わなければなりません。
また、遺言に遺言執行者が定められている場合、遺産分割協議をするにはその遺言執行者
の同意も必要です。
その他、遺言に必ず従わなければならない例外事項がいくつかあります。

 

遺言があっても、どうしても異なる割合で遺産分けしたいのであれば、専門家に相談してみてください。遺言者が遺言作成時によく考えていなかった場合や、事情の変更により、遺言の内容と異なる遺産分けをした方が客観的に合理的であることもあります。

農地を相続したら農業委員会への届出が必要です

2020-02-10

農地(田・畑)を相続し名義変更(相続登記)をしたら、農業委員会へ届出をしてください。
届出先は、相続した農地のある市町村の農業委員会です。
相続した農地が複数あり、同じ市町村ではない場合、それぞれの市町村に届出しなければなりません。
期限は、被相続人が亡くなってから10カ月以内です。

 

平成21年12月15日に農地法が改正され、この日以降に亡くなった方が農地を所有していた場合、この農地を相続すると管轄の農業委員会に届出をすることが義務化されました。
それまでは農地を売買や贈与で取得する際には農業委員会の許可や届出が必要とされていましたが、農地を相続しても農業委員会への届出は不要とされていました。したがって、農地の相続があっても農業委員会で農地の所有者が代わったことを把握できない状況でした。それが原因で、誰の農地かわからない「耕作放棄地」が増加し、社会問題となりました。これを解消するために届出が義務化されたのです。

 

この届出は義務です。怠ると罰則があります。10万円以下の過料(罰金のようなもの)を支払わなければなりません。

 

もし農地を利用するつもりがない場合、相続人の希望があれば、農業委員会は農地の利用を促進するためのあっせんなどもしてくれます。

 

届出の際には、相続登記した後の登記事項証明書(登記簿謄本)や遺言書・遺産分割協議書など、誰が農地を相続したのかがわかる書類が必要です。

 

許可ではなく届出ですので、農業委員会による審査はありません。
なお、遺言で相続人以外の者に農地を遺贈する場合、届出ではなく農業委員会の「許可」が必要となる場合があります。具体的には、包括遺贈(例、全財産を愛人に遺贈する)の場合には許可は不要ですが、特定遺贈(例、A農地を愛人に遺贈する)の場合には許可が必要となります。もちろんこの「許可」には審査があるため要件から外れると認められません。この点についてはまた別の機会に述べさせていただきたいとおもいます。

 

まとめ
 農地を相続したら10か月以内に農業委員会へ届出しなければならない

 

農地の相続について不安な方は専門家に相談してみてください。

相続開始後の保険金の受け取り忘れに注意しましょう

2020-01-22

先日たまたま保険会社にお勤めの方とお話しする機会がありました。その方によると、保険金が誰の手にも渡らないままになっていることが増えているそうです。保険金のもらい忘れです。
生命保険をかけていた方が亡くなって保険金を受け取ることが可能になっているのにもかかわらず、その方が生前家族に生命保険に入っていることを知らせていなかったため、手続きがされず宙に浮いている保険が多いとのことです。その額は数十兆円にもなるそうです。

 

生命保険に入っており被保険者が亡くなったとしても、こちらからなにもしないのに保険会社が自ら保険金を支払ってくれることはまずありません。保険会社は被保険者が亡くなったことを把握できないからです。被保険者が亡くなったら、こちらから保険会社に連絡して保険金の請求をしなければなりません。

 

相続人の中に同居の配偶者がいればその配偶者は保険のことを知っていることが多いのですが、遠くに住んでいる子供の場合そのことを知らないことも多いのです。遠方に住んでいる子供は仕事などでなかなか実家に戻ってくることも難しく、実家にある保険証券を発見できずゴミと一緒に廃棄してしまうなんてこともあるようです。

 

保険金は、支払事由が発生した日(死亡の日など)の翌日から起算して3年が経過すると時効になってしまいます(保険法)。時効になると保険金を受け取れなくなってしまいます。

もし相続開始後3年経過した後に保険金の存在に気付いたとしても諦めず請求しましょう。なかには3年経過後時効になっても保険金を支払ってくれる保険会社もあるのです。

 

保険は入ったら終わりではありません。
昔は「自分が亡くなったときのサプライズ!」なんていう人も多かったそうです。また、「自分はまだ元気だから何年か先に伝えよう」とおもっていても認知症になって伝え忘れてしまう方も多いそうです。
保険金の存在が家族に気付かれなければ無意味です。残された家族に確実にお金を残すために、保険に入ったらしっかり家族に伝えておきましょう。

 

残された相続人の方は、被相続人が生命保険に入っていなかったかどうか念入りに調べましょう。

エンディングノートは遺言ではありません

2020-01-09

先日とある相談会で「エンディングノートを書いたから自分の死後に子供たちが遺産分けで揉めることはないだろう」と仰っていた方がおられました。詳しく聞いてみると、この方はエンディングノートと遺言は同じものだとおもっていたのです。

しかし、エンディングノートと遺言は別ものです。エンディングノートは遺言ではありません。この二つの違いは強制力があるか否かです。
遺言は記載された内容に強制力があります。法的拘束力があるのです。原則、遺言と異なる内容で遺産分けすることはできません。
これに対しエンディングノートには強制力がありません。法的拘束力がないのです。法的には一切効力は生じません。いうなれば単なるノートやお手紙です。書いた人の願望にすぎません。

ですので、エンディングノートを書いたからといって自身の死後に相続争いはおきないと安心はできません。死後に遺言ではなくエンディングノートしかなかった場合には、遺産分けにつき相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。自分の死後に遺産について相続人間で揉めてほしくなければ遺言を作成しておいたほうがいいでしょう。

 

 

結論先出しにしてしまいましたが、ご存じない方のためにエンディングノートとはなにかを説明させていただきます。
明確な定義はありませんがエンディングノートとは、人生の終末期に迎える死に備えて自身の希望を書き留めておくノートです。具体的には、自分が認知症や重病になったときに備えて家族などに対して自分のこと、財産のこと、連絡先、希望することなどを知らせておきたいことを書き記します。
例えば、
「老後はこう過ごしたい」
「葬儀はこうしてほしい」
「葬儀にはあの人をよんでほしい」
「重要なものはあそこにしまってある」
「自分が死亡したらこうしてほしい」
などです。
また、プロフィールや自分史を書くことも多いでしょう。

 

エンディングノートでは、人生の終焉だけに目を向けるのではなくこれまでの人生を振り返ります。過去のいろいろな出来事を思い出すことによって、見過ごしてきた幸せに気づくことができ新たな決意をもってこの先の人生を進めることができるという効果が期待できるかもしれません。

 

エンディングノートを書くメリットは、「家族に思いを託すことができる」ことと「これまでの人生を振り返ることができること」です。

 

遺言と異なり、書き方が決められているわけではありません。何に書いてもかまいません。書店や文房具店に行けばいろいろな種類のエンディングノートが販売されています。これらのエンディングノートはノート形式で既に項目が印刷されています。ですから簡単にエンディングノートを書くことができます。費用もほとんどかかりません。

 

しかし、エンディングノートには強制力がありません。法的拘束力がありません。そこに希望が記載されていたとしても相続人がそれに従う義務はありません。ここが遺言との大きな違いです。

 

 

まとめ
・遺言に強制力(法的拘束力)はあるが、エンディングノートに強制力(法的拘束力)はない。

 

 

いま流行りのエンディングノートではありますが、自分の死後に遺産分けで相続人間での争いを防止したいのであれば遺言を作成しておきましょう。

不安な方は専門家に相談してみてください。

相続放棄するとお墓や仏壇も引き継げなくなるのか?

2019-12-13

「相続放棄するとお墓や仏壇も引き継げなくなるのでは?」と相続放棄をためらう方がおられます。本当に相続放棄するとお墓や仏壇は引き継げないのでしょうか?

 

相続放棄をすると、借金などマイナス財産だけでなく預貯金や不動産などプラス財産も含め一切の相続財産(遺産)を引き継げなくなります。すると「一切の財産を引き継げないのなら、お墓や仏壇も引き継げないのでは?」とおもうかもしれません。しかし、相続放棄してもお墓や仏壇は引き継げます。
それはお墓や仏壇などは相続財産ではないからです。家系図、位牌、仏壇、墓碑、墓地など祖先の祭りのために使用される財産を祭祀財産(さいしざいさん)といい、相続財産とは区別されています。
したがって、相続放棄しても祭祀財産はその影響を受けません。
よって、お墓や仏壇のことで相続放棄をためらう必要はありません。

逆に、お墓や仏壇の管理がわずらわしいからと相続放棄してもお墓や仏壇は放棄できません。

 

ところで祭祀財産は誰が引き継ぐべきものなのでしょうか?
祭祀財産は一般の財産とは異なる引き継ぎ方法が民法で定められています。民法の法定相続人が相続するものではありません。祭祀財産を引き継ぐ者を、祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)といいます。
まず被相続人が指定した者が祭祀承継者です。第一に被相続人の意思を尊重するということです。生前に口頭で述べていた場合や遺言で指定していた場合などです。
被相続人が祭祀承継者を指定していないときは、慣習に従うと定められています。代々長男が祭祀財産を承継してきた場合やその地方の慣習によって決まります。
慣習によっても明らかとならない場合は、家庭裁判所の調停・審判によって決定されます。

 

なお、お墓や仏壇など祭祀財産に相続税や贈与税はかかりません。
そのため高額なお墓や仏壇を購入し預貯金を減らし相続税対策をおこなう方もおられます。ただ、生前に購入しかつ生前にその代金を完済していることが条件です。また、高価すぎるもの(換価性の高い金でできたものや骨董品として価値のあるもの)は祭祀財産と認められないことがあります。注意してください。

 

まとめ
・相続放棄してもお墓や仏壇は引き継げる

 

不安がある方は専門家に相談してみてください。

相続放棄しても生命保険金は受け取れるのか?

2019-12-04

相続放棄の相談でたまにあるのが「相続放棄すると生命保険金も受け取れなくなるのでしょうか?」という質問。

 

結論からいいますと、多くの場合相続放棄しても生命保険金は受け取れます。なぜなら、生命保険金は相続財産(遺産)ではなく相続人の固有の財産だからです。
相続放棄をすると、借金等マイナス財産だけでなく預貯金や不動産などプラスの財産も一切引き継げなくなってしまいます。しかし、生命保険金は法律上受取人である方の固有の財産です。したがって、相続放棄をしても生命保険金の受け取りは可能です。また、生命保険金を受け取った後でも相続を承認したことにはならないので遺産を相続していなければ相続放棄をすることができます。

 

ただ、これは生命保険金の受取人が被相続人(亡くなった方)ではなく相続人になっていた場合です。もし生命保険金の受取人が被相続人になっていた場合、相続放棄すると生命保険金は受け取れなくなってしまいます。これは、生命保険金の受取人が被相続人になっていた場合、生命保険金は相続財産(遺産)となるからです。
わかりやすく説明すると、生命保険金の受取人が被相続人であった場合、被相続人が亡くなると保険金を受け取る権利が相続財産となりそれが相続人に相続されます。それに対し、受取人が相続人であった場合、保険金を受け取る権利は被相続人が亡くなると相続財産にならずただちに相続人に発生するのです。
もし保険金の受取人が被相続人になっているのに、こっそり保険金を受け取ってしまうと相続を「承認」したことになりもはや相続放棄ができなくなってしまいます。

 

相続発生前の方は受取人をどうするのかよく考えて、受取人の変更も検討しましょう。

 

以上のように、生命保険金は法律上相続財産ではありません。しかし、税法上は「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。つまり相続放棄をしても生命保険金を受け取れば相続税の課税対象になるのです。この点には注意してください。

 

相続人が生命保険金を受け取る場合、「500万円×法定相続人数」の額が非課税枠となります。
しかし、相続放棄した場合、相続人とはみなされないので相続放棄をした本人は非課税の適用を受けられません。
ただ、非課税金額を計算する際の法定相続人数には相続放棄した者も含めます。

 

なお、相続税の基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人数」の法定相続人数には相続放棄した者も含めます。

 

まとめ
・相続放棄しても受取人が「相続人」になっていれば生命保険金は受け取れる。
・受取人が「被相続人」になっている場合、相続放棄すると生命保険金は受け取れない。
・生命保険金はみなし相続財産として相続放棄しても相続税の課税対象になる。

 

不安な方は専門家に相談してみてください。

被相続人の借金の調査方法

2019-11-26

「父親が亡くなったが借金があったようだ。しかし、いくらあるかよくわからない。父名義の預金もあるが借金の額の方が多ければ相続放棄したい。亡くなった父の借金をどのように調べればいいのでしょうか?」という相談をよく受けます。

 

相続放棄をするとはじめから相続人ではなかったことになります。借金などマイナスの財産も相続しませんが、預貯金や不動産などのプラスの財産も相続できなくなってしまいます。ですので、被相続人に借金などマイナス財産があった場合、プラスの財産とマイナス財産を比較してマイナス財産の方が多ければ相続放棄を検討することになります。しかし、亡くなった被相続人にいくら借金があったのかわからないことも多いでしょう。家族に内緒で借金をしている方も多いです。被相続人の自宅に借金についての書類もないし、通帳の記載からもわからないことも多いとおもいます。
そこで今回は、自宅に借金についての書類が見あたらないときの借金の調査方法について述べたいとおもいます。

 

結論からいいますと「信用情報機関に問い合わせる」です。
貸金業者・クレジット会社や銀行などのほとんどは信用情報機関に加盟しています。もし借入があればそこに登録されているはずです。ここには延滞や借金の整理をした旨も記載されています。みなさんも「ブラックリスト」という言葉を聞いたことがあるかとおもいます。しかし、実は「ブラックリスト」というリストはありません。信用情報に延滞や債務整理など事故情報が記載されることを世間では「ブラックリストに載る」といっているのです。

日本には以下3つの信用情報機関があります。

・JICC(日本信用情報機構)・・・・・・・・・・主に消費者金融に対する借入
・CIC(シーアイシー)・・・・・・・・・・・・・主にクレジット会社に対する借入
・全国銀行協会(全国銀行個人信用情報センター)・・・・・主に銀行に対する借入

上記信用情報機関に対して信用情報の開示請求をおこないます。方法は、窓口・郵送・ネットです。必要書類は信用情報機関によって多少異なります。相続人がおこなうには戸籍が必要です。一定の手数料も必要です(500~1000円程度)。直接電話するか各信用情報機関のホームページを参照してください。法律家が代理しておこなうことも可能です。

 

相続放棄は相続のあったことを知ってから3か月以内にしなければなりません。急いで信用情報の開示請求をしてください。

 

なお、信用情報機関に問い合わせても、知人など個人からの借入やヤミ金からの借入はわかりません。最近話題にされることの多い奨学金は平成20年11月以前の借入についてはわかりません(ただし例外あり)。そこは注意してください。

 

もし被相続人の借金調査中に消費者金融などの督促がきたらどうするべきでしょうか?
相続放棄を検討しているのであれば返済してはいけません。1円でも返済してしまうと相続を「承認」したことになり、もはや相続放棄できなくなってしまうからです。督促を受けたら相続放棄を検討している旨を伝える対応をしてください。
相続開始後3か月を経過してから督促がくるかもしれません。回収する方も必死ですからあえて3か月経過後に督促してくることも多いのです。その場合にも相続放棄できる可能性がある(何も相続していない場合)のであきらめないでください。返済せず専門家に相談してください。

 

まとめ
・被相続人の借金の有無・額が不明な場合は、信用情報機関に信用情報の開示請求をする
・相続放棄は原則3か月以内にしなければならないので信用情報の開示請求は急ぐ
・相続放棄を検討するなら金融機関から督促がきても返済してはならない

 

不安な方は専門家に相談してみてください

遺言執行者を定めていない遺言はトラブルの元!

2019-11-05

結論先出しですが、遺言には必ず遺言執行者を定めておきましょう。

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする者です。遺言が効力を生じるのは遺言者が亡くなった後ですから、遺言の執行を遺言者自身が行うことは不可能です。そこで、遺言執行者は遺言者が亡くなった後、遺言者にかわって遺言の内容を実現するために必要な手続きをおこなうのです。

遺言に遺言執行者の記載がなくても遺言の効力には何ら問題ありません。その遺言も有効です。しかし、遺言執行者を定めておかなかったために遺言内容が実現できず遺言をかいたことが全く意味をなさなくなってしまうことがあります。

例えばよくある事例です。遺言者の推定相続人が妻と長男・次男の計3人だとします。遺言者たる夫が「預金の全てを妻に相続させる」との遺言を作成しました。そして遺言者たる夫が亡くなり相続が開始したので、妻が遺言書を持って銀行に亡夫名義の預金を解約しにいきました。ところが銀行から「遺言執行者の記載がないので長男・次男の署名押印と印鑑証明書もないと手続きできません」といわれ解約できませんでした。

通常、被相続人名義の預金の相続手続き(解約)をおこなう場合、相続人全員の署名押印と印鑑証明書が必要となります。遺言書がありかつ遺言執行者がいる場合には相続人全員の関与は必要なく、遺言執行者の署名押印・印鑑証明書だけで手続き可能なのです。上記の事例の場合、長男・次男が手続きに応じてくれればいいのですが、長男・次男に「自分にも相続分はあるはずだから手続きには協力できない」といわれれば遺言の内容通りに遺産分けをすることができなくなってしまいます。あらためて相続人全員で遺産分割協議をする必要がでてきます。この亡夫名義の預金口座は凍結されてしまうので、この預金から生活費を捻出していた場合や、相続税の申告期限までに現金化できず納税資金が準備できなくなったら一大事です。これでは手間をかけて遺言を作成したことが無駄になってしまいます。
遺言で相続人以外の方に財産を遺贈していた場合はなおさら揉める可能性が高いでしょう。

もちろん遺言者が亡くなった後に裁判所に対して遺言執行者の選任申立ては可能ですが時間と手間・費用がかかってしまいます。

遺言執行者には未成年者と破産者以外なら誰でもなることができます。相続人あるいは相続人でない受遺者もなることができます。また、司法書士などの法律家もなることができます。紛争が予想される場合には法律家を遺言執行者に指定しておくことが多いです。

以上のように、遺言の内容を必ず実現できるように、遺言には必ず遺言執行者を定めておきましょう。

まとめ
遺言には必ず遺言執行者を定めておきましょう

不安がある方は専門家に相談してみてください。

生命保険金は遺留分の対象になるのか?

2019-10-18

よく相続の相談で「生命保険金は遺留分の対象になるの?」との質問を受けます。
結論からいいますと、生命保険金は遺留分の対象に原則なりません。

 

遺留分とは、相続人のために確保される法律上最低限度認められる取り分です。兄弟姉妹以外の相続人に認められています。遺言により愛人など相続人でない者や一部の相続人に全財産を与えるとされていても、遺産をもらえなかった兄弟姉妹以外の相続人は、遺言の一部無効を主張して遺留分の請求をすることが可能です。

例えば、遺言により遺産が相続人間で平等に分けられていたとしても、被相続人が一部の相続人を受取人として生命保険に加入していた場合、この保険金額を合わせると相続人間で不平等になることがあります。しかし、生命保険金は相続財産ではありません。保険金は受取人の固有の財産だからです。したがって、遺留分も生命保険金は除外して計算することになり、生命保険金は遺留分の対象になりません。遺言に「兄弟半分ずつ相続させる」とあり、これとは別に長男だけを受取人として生命保険がかけられていたとしても弟の遺留分は認められません。

 

生命保険金は遺留分の対象にならないといいましたが、実は例外があります。他の相続人との間に著しく不公平が生じている場合、例外的に生命保険金も遺留分の対象になります。遺産に対して保険金額が著しく高額な場合などです。遺産がほぼないのに一部の相続人だけを受取人として高額の保険契約をしていた場合などです。その他、被相続人との同居状況や介護の貢献度・後妻との婚姻期間などが考慮されます。
しかし、生命保険金が遺留分の対象になるのはあくまで例外です。実際に認められることはあまりありません。

 

以上のおはなしは、保険金の受取人が被相続人ではない場合です。もし保険金の受取人が被相続人だった場合は遺留分の対象になります。保険金の受取人が被相続人の場合、保険金は被相続人の財産であり相続人固有の財産ではありません。この保険金は相続財産となります。この場合の保険金は相続人に相続されるから相続人は保険金を受け取れるのです。

もし相続対策のためにこれから生命保険に加入しようとおもっている方は保険金の受取人に注意してください。ここでは触れませんが上記の問題以外にも税額がかわってきます。すでに保険に加入しており受取人を被相続人(自分)にしている場合は受取人を相続人に変更することも検討してください。

 

はなしはそれますが最後に注意点として、遺留分対策として生命保険に加入する際に受取人を「遺留分権利者」にすると考える方がおられますがこれは正しいとはいえません。上述のように生命保険金は相続財産から離脱するので遺留分権利者は生命保険金を受け取った後もさらに遺留分請求をすることができてしまいます。遺留分対策として生命保険に加入する場合には受取人を遺産の承継者にしておいた方が確実です。

遺留分権利者を受取人として、遺留分権利者の感情を抑え遺留分権の行使をしないよう生前に説得しておくというやり方もありますが確実ではありません(よくこの方法は取られていますが)。

 

まとめ
・生命保険金は遺留分の対象に原則ならない
・例外的に他の相続人との間に著しく不公平が生じている場合は遺留分の対象となる
・保険金の受取人が被相続人の場合には保険金は相続財産なので遺留分の対象となる

 

保険金について遺産分割の対象となるのか、遺留分の対象になるのか、不安な方は専門家に相談してみてください。

父が死亡したときに子全員が相続放棄しても母だけが相続人となるわけではない

2019-09-27

先日こんな相談を受けました。「父が亡くなりました。相続人は母と長男である私と弟です。自宅を含む全ての遺産を母に相続させたいので私と弟は裁判所へ相続放棄の準備をしています。これで自宅を含む遺産は全て母にわたりますよね?」
これは違います。このケースで子供全員が相続放棄しても母が父の遺産全てを相続できるわけではありません。父が亡くなり子全員が相続放棄しても、母だけが相続人になるわけではありません。もし父方の祖父母が生存していれば祖父母、祖父母が亡くなっている場合は父の兄弟姉妹が相続人となります。もし父よりも兄弟姉妹が先になくなっておりその者に子がいればその子(甥・姪)が相続人となります。

相続放棄をするとはじめから相続人とならなかったものとみなされます。相続放棄をした者を外して誰が相続人であるかを決めるわけです。まず配偶者は常に相続人となります。子がいれば子。子がいなければ両親(祖父母)。両親が既に亡くなっていれば兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に亡くなっていれば甥・姪)です。配偶者だけが相続人となるのは、子(孫含む)、両親(祖父母含む)、兄弟姉妹(甥・姪含む)の全てがいない場合だけです。

今回の上記事例で多いのは、父の兄弟姉妹(あるいは甥・姪)も母と並び相続人となるパターンです。上記事例で子全員が相続放棄すると母とともに父の兄弟姉妹(あるいは甥・姪)も同時に相続人となることが多いです。そうなると相続人が多数になることが多いです。この場合、相続人全員で遺産分割協議をして遺産分けをすることになります。父の兄弟姉妹(あるいは甥・姪)が全ての遺産を母が引き継ぐことに同意してくれれば実害はありません。単に余分に手間と費用がかかっただけとなります。しかし、他の相続人である兄弟姉妹(あるいは甥・姪)の中に反対する者が出てきた場合困ります。他の相続人である兄弟姉妹(あるいは甥・姪)にも法定相続分の権利を主張することが可能となります。「棚から牡丹餅」ではありますがやはり中には相続人としての権利を主張してくる方がおられます。つまり、この相続人にお金を払わないと家の名義を妻に変更できません。また、会ったこともない相続人と遺産分割協議をしなければならないかもしれません。相続人の中に行方不明者がいるかもしれません。実際にこのようなことがおきています。
今回の事例では、家庭裁判所に相続放棄の申述などせずに母と長男・次男とで遺産分割協議をして「自宅を含む全ての財産を母が相続する」と決めればいいのです。そうすれば父の兄弟姉妹・甥・姪が相続人として登場することはありませんので事はスムーズに進みます。手間も費用もかかりません。

 

まとめ
父が亡くなって母・子が相続人の場合、子全員が相続放棄しても母だけが相続人となるわけではない。祖父母あるいは父の兄弟姉妹・甥・姪も相続人となる。

 

相続放棄は撤回できません。一度ミスをすると取り返しのつかないことになります。相続放棄など難解な法律手続きをする前には専門家に相談してみてください。

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